88 千年の恋人〈裏梅side〉 ページ39
その日、A様はいつにも増して、出来上がった膳をじっと見つめていた。
「どうかされましたか？」
尋ねると、ピクリと肩を揺らし私を視界に映す。
その瞳には深い戸惑いの色が浮かんでいた。
「裏梅さま」
「はい？」
僅かに震える声で呼ばれ、疑問に思いながら返事をする。
「宿儺さまは人間を食べるのではないのですか？」
「え…人間を…？」
「はい。そう聞いておりましたので…」
当然のように言われた言葉に私の方が怯えた。
人間を食べる…
宿儺様は確かに食に拘りがあるけれど、人間を食べるなどという人道に外れた事はしない。
おそらく、鬼神のごとき強さを誇る呪術師としての才に尾ひれがついたのだろう。
A様はそんな噂を事実として信じきっていたようだ。
「ご安心ください。宿儺様は食に関して異常な拘りはありますが、さすがに人間は食べませんよ。鬼でも蛇でもありませんから」
「そう…なのですか…」
ほっと息をついて安堵するA様に、クスリと小さく笑うと、頬を染めて俯いてしまった。
本当に、何も知らない純粋な少女のようだ。
国民から『宿儺様へ』と国司様を通して貢がれたようですが、国民の方が宿儺様の“お好み”を良くご存じのようで…
いずれ心が通じれば、仲睦まじい夫婦となるでしょう。
「では、A様。こちらの膳を宿儺様へ」
「はい、かしこまりました。裏梅さま」
未だに表情は乏しいけれど、それなりに会話が成り立つようになったのは、つい最近のこと。
『女の様子はどうだ』と、明後日の方向に顔を向けた宿儺様に確認される日々も終わりを告げつつある。
純真無垢で、庇護欲をそそる少女のように愛らしい容姿。
宿儺様が日頃好まれる女人と相違ない…
どうやらA様は早々に、宿儺様のお心を射止めてしまわれたらしい。
「今日、Aはどうだった？」
一日の報告終わり。
何気ない雰囲気を装って、宿儺様にとっては一番気になる『本題』を口にする。
「はい。滞りなくお仕事をこなしていらっしゃいました」
「そうか…」
「口数も日毎に増えて時折、僅かに微笑むこともあります」
「笑うのか…？」
「ええ、稀に…」
「そう…か…」
安堵したように小さく息をつき、頬を緩ませる宿儺様には自覚がない。
けれど間違いなくA様を大切に想っている事が伝わってくる。
今が好機な気がして、私は再度頭を下げた。
「宿儺様。そろそろお部屋にお呼びしてはいかがでしょう？」
「…は？…」
「初めは添い寝などから…」
宿儺様が驚きに目を見張り、珍しくほんの僅か頬を染めた。
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うさぎのおもち(プロフ) - ゆずあさん» ゆずあさんコメントへのお返事ありがとうございます。本当に素晴らしかったです。同じ思いで嬉しいです笑千年の恋の方も読ませて頂いています！是非最後まで読ませていただきます！( ߹꒳߹ ) (11月28日 22時) (
レス) id: 2be3f74d8b (このIDを非表示/違反報告)
ゆずあ(プロフ) - うさぎのおもちさん» 熱いコメント＆感動＆号泣！こちらこそありがとうございます！(*T▽T*) 実は私も陰ながら宿儺との未来を応援していました笑 なので宿儺との物語は『千年の恋』で、思いつくまま気が済むまで書こうと決めています。見届けていただけると嬉しいです(*>∀<*)♪ (11月27日 23時) (レス) id: 2fea8fb6ab (このIDを非表示/違反報告)
うさぎのおもち(プロフ) - 宿儺と主人公を応援してたのでめちゃくちゃ読んでてしんどかった(泣)めちゃくちゃ号泣して頭痛いです笑また宿儺と出会って結ばれて欲しいです泣ほんとに素晴らしいお話読ませていただきました。次の作品も楽しみにしています。本当にありがとうございます (11月27日 22時) (レス) @page49 id: 4b465d9ef7 (このIDを非表示/違反報告)
ゆずあ(プロフ) - みぃさん» 早速のコメントありがとうございます！頭の中でごちゃごちゃしている物語を整理しながら、ご期待に沿えるよう焦らず更新していきます！♪(/ω＼*) (2021年12月17日 6時) (レス) id: 2fea8fb6ab (このIDを非表示/違反報告)
みぃ(プロフ) - 続編おめでとうございます！！この先の展開がとても気になります！更新楽しみにしてますね♪(◍•ᴗ•◍) (2021年12月17日 2時) (レス) id: c397bf8382 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ゆずあ | 作成日時：2021年12月16日 19時
