86 想い出の場所〈貴女&五条side〉 ページ37
「…ッ…いって、きます…悟──」
ふっ…と意識が途切れ…
「──さん…」
一瞬の暗転後、広がったのは真っ白な世界だった。
目の前にはもう悟さんの姿は無く…
頬に残された温もりと感触を逃がさないように、忘れてしまわないように、自身の手の平で蓋をする。
頬に残った温もりに浸りながら、もう悟さんには逢えないかもしれないという想いに支配され、肌がざわめいた。
ううん、その確率の方が断然高い。
でも…
「A」
「宿儺…」
彼の想いにとことん付き合うと決めたから。
どこか気まずそうな佇まいの、かつての恋人に笑みを贈り…
「えっと…お世話になります」
「なんだそれは……早くこちらへ来い」
今度は不愉快そうに眉根を寄せた彼が、私の手を取った瞬間。
何もない真っ白な空間に、宿儺の生得領域である、記憶の中で今も鮮やかに蘇る想い出の場所。
山頂のお屋敷が現れた。
【五条side】
口づけで目をつぶったまま、Aは気を失うように眠りについた。
しばらく目覚めることはないだろう。
分かってはいたけど、実際に体験するとさすがにキツいな…
無防備な、僕の腕に身を委ねて安心しきった寝顔を見つめ、閉じたまぶたから溢れ流れた一筋の涙を指先で受け止めた。
目元に力を入れて涙をこらえ、身体の力が完全に抜けたAを抱いて立ち上がる。
「大丈夫……絶対…ッ…戻ってくる……ッ」
Aの温もりに浸りながら
生きている証の鼓動を感じながら
『大丈夫。まだ独りじゃない』
何度も何度も、自分に言い聞かせる。
自分自身で強く暗示でもかけておかないと、みっともなく崩れ落ちて泣き叫びたくなるから。
大切だと想う存在を護れないなら、何のための強さなのか…
いくら自問自答しても答えには辿り着けない。
“あの日”からずっと……
「五条…」
青い春から苦い思い出までを引きずり出していると不意に、背後から馴染みのある声がかかる。
すうぅ…っと大きく息を吸い込んで振り返った。
大切な僕達の仲間が姿を消した“あの日”と同じ、寄り添うような眼差しに、口元に力を込めてゆっくりと微笑んだ。
「さっき、行っちゃったよ」
「そうか…」
硝子はそう言って目を伏せた。
何もしてやれなかった虚無感が、Aと笑い合った想い出の場所に降り積もる。
少しの沈黙が落ちたあと、硝子が労りの声を上げた。
「部屋は整えてあるから、ゆっくり寝かせてやりな」
「うん…ありがとう、硝子」
精一杯強がって、いびつな笑顔を作り…
沈みそうに重く固まった足を、何とか前へと進めた──…
*
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うさぎのおもち(プロフ) - ゆずあさん» ゆずあさんコメントへのお返事ありがとうございます。本当に素晴らしかったです。同じ思いで嬉しいです笑千年の恋の方も読ませて頂いています！是非最後まで読ませていただきます！( ߹꒳߹ ) (11月28日 22時) (
レス) id: 2be3f74d8b (このIDを非表示/違反報告)
ゆずあ(プロフ) - うさぎのおもちさん» 熱いコメント＆感動＆号泣！こちらこそありがとうございます！(*T▽T*) 実は私も陰ながら宿儺との未来を応援していました笑 なので宿儺との物語は『千年の恋』で、思いつくまま気が済むまで書こうと決めています。見届けていただけると嬉しいです(*>∀<*)♪ (11月27日 23時) (レス) id: 2fea8fb6ab (このIDを非表示/違反報告)
うさぎのおもち(プロフ) - 宿儺と主人公を応援してたのでめちゃくちゃ読んでてしんどかった(泣)めちゃくちゃ号泣して頭痛いです笑また宿儺と出会って結ばれて欲しいです泣ほんとに素晴らしいお話読ませていただきました。次の作品も楽しみにしています。本当にありがとうございます (11月27日 22時) (レス) @page49 id: 4b465d9ef7 (このIDを非表示/違反報告)
ゆずあ(プロフ) - みぃさん» 早速のコメントありがとうございます！頭の中でごちゃごちゃしている物語を整理しながら、ご期待に沿えるよう焦らず更新していきます！♪(/ω＼*) (2021年12月17日 6時) (レス) id: 2fea8fb6ab (このIDを非表示/違反報告)
みぃ(プロフ) - 続編おめでとうございます！！この先の展開がとても気になります！更新楽しみにしてますね♪(◍•ᴗ•◍) (2021年12月17日 2時) (レス) id: c397bf8382 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ゆずあ | 作成日時：2021年12月16日 19時
