エオリアンハープ

☆★☆★ ページ42

「あの人、道に迷っていたんだって。わかったみたいなので大丈夫だと思う。
　なんだかのどが渇いちゃったね。」
「ずっと歩きっぱなしだし、どこかに座ろうか？」


アーケードを抜けた先にテーブル席があるのが見えたので、とりあえずそこまで歩いて行くと、普段は車道の部分が歩行者天国のようになっていて、けやき並木の下にテーブルがたくさん並べてあった。
フレッシュジュースを売っているお店があったので、俺がオレンジジュース、Aがグレープフルーツジュースを買って、空いている席に座った。


「Aってすげーな。英語、ペラペラなんだ。」
「ペラペラってわけには行かないけどね。」
「いや、あの早口の英語聞き取れるだけでもすごいでしょ？英語、どこで習ったの？」
「内野先生、あ、こないだの発表会のときのピアノの先生だけど、先生のお宅のお隣にアメリカから来られたご一家がいらっしゃって。そこで鍛えられたの。」
「鍛えられた？」
「そう。ピアノのレッスンの前にそのお宅で30分以上英語でおしゃべりしてこなかったら、レッスンしてもらえなくて。前も言ったと思うけど、内野先生って、どこか仙人というか不思議な人で、突然そんな訳のわからない課題を出されたりするのよね。先生曰く、ピアノの演奏をするうえでいろんな経験が必要だ、って。」
「今も？」
「今はさすがにおしゃべりしないとレッスンしてもらえないことはないけど、すっかり仲良くなっちゃったし、個人的によくお邪魔するの。」
「こないだ発表会に来てた子達もみんなそうなの？」
「さすがにそれはご迷惑だと思うし、みんなってことはないんじゃないかな。」


・・・なんか俺、すげー子を彼女にしてしまった？？
でも、そんな話を聞けるのも嬉しいかな。


ふと時計に目をやると、9時前だった。

「A、ここから家までどれくらいかかる？」
「30分位かな。あ、もうこんな時間なんだ。ごめんね、どんなに遅くても10時までには帰って来いって言われてるの。」
「じゃ、ぼちぼち帰らないとね。送って行くよ。」
「え、だってうち、結弦君の家と反対方向だから、結弦君が家に帰るの遅くなっちゃう。」
「俺は男だよ。別に門限あるわけじゃないし、第一こんな夜遅くにA一人で帰らせる訳にはいかないよ。」
「。。。いいの？」
「いいの、じゃなくて、送らせてよ。心配だし、それに、少しでもAと長く一緒にいたいし・・・」

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