エオリアンハープ

悩み ページ29

あの舞台での彼女を見てからというもの、なぜかどんな顔をして音楽室に行っていいものかがわからず、練習やら宿題やら近づいてきたテスト勉強やらで時間が取れないことを言い訳に、ここんとこずっと放課後の教室から直接リンクに向かっている。

ってか、誰に頼まれたわけでもなく、単に自分があの音を聴きたくて行っていただけの音楽室に行かないのに、何で俺が言い訳をしてるんだ？？

いやいや、いくら聴いているだけとはいえ、そうしょっちゅう部屋に来られると、彼女も練習がし辛いだろう。もっとそれに早く気づかないといけなかったよな・・・


自分の中に鬱積する訳のわからないもやもやを振り払う術を練習に集中する他に思いつかず、とにかく無心になって氷の上に何重もの軌跡を描いていく。

ある意味、あの音楽室に行く前となんら変わらない生活に戻っただけではあるが、練習が終わった後は達成感とともに、なんとも自分でも説明のつかない感情が湧き上がってくる。

。。。。自分で行けない理由を必死で作っておきながら、何かぽっかり穴が開いてしまったような・・・・

いやいや、何を考えてるんだ。
来週から始まるテストも今度こそ負けない。なんせ、相手は前回事実上満点の彼女だ。
連日、練習後の疲れから来る睡魔との戦いだが、彼女に負けるわけにはいかない。




「・・・づる、結弦!!」
「え？ あ？ あぁ？！ 何、俊之？」

いつの間にか終礼が終わっていた。
部活に向かうやつも、帰るやつも、いろんな話をしながら、教室の外に向かっていた。


「何ぼーっとしてんだよ。」
「あ、いや、ここんとこちょっと詰めて練習してて、テストも近いから勉強もしねーと、ってんでちょっと眠くて。でも、次はぜってーに負けらんねーし。」
「おめーまさか、あの西崎に本気で勝つ気でやってんのかよ？」
「あぁ・・・何が悪い？」
「いやいや、相手が悪すぎるやろ。相手は前回ほぼ満点だぜ？？」
「だから、その満点目指すしかねーから頑張ってんじゃねーかよ。」

いつもはなんとも思わない俊之の軽口が妙に癇に障って、大声になってしまった。
何を俊之に八つ当たりしてるんだかと思うと、妙に自分が腹立たしくなってくる。

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