エオリアンハープ

生傷 ページ15

木々の青さが空の青さに映える。
街を流れる川の光もまぶしくなってきた。


今シーズンから、世界トップレベルの選手がひしめく今の日本の男子シングルの戦いの中に入っていける自分が嬉しくて、おのずと練習にも力が入る。
今シーズンのプログラムの作りこみも始まり、学校に行く前にリンクに寄る事も増えてきた。シニアのトップクラスと互角に戦うためには、とにかくFPに4回転を入れないことには始まらない。とにかく、時間さえあればずっと氷の上にいたい。練習がしたい。


「結弦よぉ」
「んー？」
「お前、今朝もリンクから学校来たんか？」
「あぁ。」
「すげぇな」
「何が？」
「いや、よく昼飯までなんも食わんと持つなぁ、って」
「なんだそりゃ？？」
「俺なんか、朝飯食って学校来ても、2時間目には腹減ってよ。弁当いくつあっても足りへんねんけど」
「俺はお前ほど燃費悪くねーよ。そういうお前だって、電車で20分もかかる家から、毎日ランニングして登下校してるじゃねぇか。俺のことをスケート馬鹿って言うけど、お前もたいてい陸上バカだと思うけどな」
「いや、節約節約。定期代をメシ代にまわしたいだけやがな」


そんな会話をしながら男友達数人で昼飯を食べていると、放送部が毎日やっている昼の番組が耳に入った。
FM放送のパロディのようなつくりで毎日流れている番組を特に気に留めたこともなかったが、俊之達との会話が途切れた合間にDJの声が聞こえて来た。

「それでは、今日はいつもとはちょっと雰囲気を変えて、クラシック音楽をお楽しみ下さい。」

どこかで聴いたことのあるピアノとオーケストラの演奏が聞こえてきたとき、ふとこないだ交わした会話の1フレーズが頭の中にこだました。


　『それは、スケートが好き？って聞かれたときの羽生君の答えとたぶん一緒じゃないかなって思うけど？』



放課後、また行ってみようかな。。。。

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