報われない恋を、君に… 【合作】 (ページ8)

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Episode 8 －硝子夜空ページ8

橘くんの忠告を受けた次の日から、私は彼の部屋へ行く回数が増えていく。勿論、あの看護師とはどんどん仲が悪く＿＿まあ、一方的に睨まれているだけだが＿＿なっていき、世間話すらしない間柄となった。

窓から差し込む明るい光が夕焼け色に染まり、段々と闇へ染まり出す頃。それが私が彼と逢う短い時間の始まり。ノックをみっつが幸せの合図。

「今日、月が見えなくて残念です…」

　少しの会話が途切れた頃、彼はふと呟いた。私は正直、月はあまり好きでは無い。冷たい白の光は見ていると感情を削ぎとられていくような気がするし、それよりなにより。

『月が綺麗ですね……』

そう言う彼を忘れられないからだ。でも、今は。この感情は抑えておこう。彼が私の事を受け入れたいと言ってくれるまでは、彼に気持ちを押し付けてはいけない。

「そうですね…」

肩を揺らしてクスッ、と笑う。貴方はきっと、この息が詰まるような苦しさを知らないのでしょうね。笑顔の裏でこんなに恋い焦がれていることなんて、考えもしてないでしょう。

それで良いわよ。それで良いの。
貴方に嫌われる辛さよりは痛みが軽いから。

「今日は、お出掛けの誘いをしにきました…、
鈴助というお店の珈琲とサンドウィッチが美味しいので、貴方と一緒に食べたいんです……」

最後に鈴助へ出掛ける誘いをしたならば、彼は了承をくれた。夕焼け色が完全に闇へ飲み込まれると、その幸せな時間は終わりを告げる。

「さよなら」

部屋を出たため、ドアの向こうに行ってしまった愛しい人に挨拶をし、病室へ戻る。すると、自身の病室に立っているのは医師と看護師だった。一応、形式的なお辞儀をする。

「城月さん。大切なお話があります」

真剣な顔の医師に、表情には出していないが何処か嬉しそうな看護師。きっと、いい話では無いのだろう。にやにや、と心の中で笑う看護師を思い浮かべ、寒気がした。

「……それは……、事故のことで、かしら？」

ぞくぞく、そわそわ。
段々と脳を支配していく恐怖心。

「そうです。取り合えずご説明したいと思いますから、どうぞ病室の中へ」

「先生、私はこれで」

普段はどうも思わない看護師の勝ち誇った顔が、憎くて、憎くて、堪らない。冷静さを失う脳が、正常な判断を鈍らせた。

「あぁ」

私の病室の扉が閉まる音がする。

嗚呼、さっき離れたばかりなのに。
藍守さん、貴方に逢いたい。