夕焼けと黒【ワートリ】2 (ページ6)

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束の間の戯れ・復唱ページ6

別日。

「覇気がない」

仄暗い作戦室。
頬杖をつき、支給されたパソコンを暫し眺めていた太刀川はそうこぼした。

「そっスか？」
ソファに寝転がっているチームメイトの出水が、
そう言ってこちらに寝返りを打つ。

出「例の新人でしょその人。
対戦した陽介は強ぇって言ってましたよ」
太「そうじゃなくて」
出「？」

パソコンを閉じ、手持ち無沙汰に空のペットボトルをパキパキと鳴らす。

太「なーんか、機械的なんだよなぁ。」

出「へぇ…」
未だ怪訝な顔をした出水だが、ふと思い出したように口を開いた。

出「…てか太刀川さん、覇気って言葉知ってたんスね」
太「…出水？」

――――――――

「へくしっ！」

咄嗟に口を両手で覆ってから、Aは鼻をすん、とすする。

「誰かにウワサでもされてんじゃねーの」

そう言いながら、
影浦は自販機から己の分の缶ジュースを取り出した。

A「誰が噂してるんだろう」
影「知るか」
A「私も知らないや」

彼女は何気なしにふわりと微笑む。
プシッ、と間の抜けた音が廊下に響いた。

各々の防衛任務を終えてから、
作戦室の区画で鉢合わせた2人は軽く10本勝負をしてきたところだ。

時刻は間も無く午後8時を回る。

A「あ」

言いながら、ぱっと影浦を振り返った。

A「私、食堂に行かなきゃ。ちゃんとご飯食べないと」
影「ん」

缶から口を離し、自販機横のごみ箱にそれを投げ入れた。

今度はからん、と乾いた音が響く。

影「俺ァ帰るわ。店の手伝いしねーと」
A「店？」
影「うち、お好み焼きやってんだよ」

そのまま、
「じゃあな」
と去る背を見送りながら、ひとり残されたAはゆっくりと首を傾げた。

A「おこのみやき…？」

やがて、ふるふると髪を揺らし、食事を取らねばと食堂へ足を急がせる。

飯にありつけることを有り難く思い、朝晩は可能な限り飯を食え。
A「腹が減っては戦はできぬ」

誰も居ないことをサイドエフェクトで認識し、尚も小さな声で教訓を復唱する。

どこか幼く見えるその背は、やがて曲がり角へと消えていった。

…間もなく、ランク戦シーズンは終盤を迎える。