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歪み硝子に決別を・追想 ページ46

二人は道中会話もなく、それでも人目を憚るが如く。
迷いなく、影浦隊の隊室に入った。




「座っとけ」




いつも通りのドア、いつも通りのソファ。

ドカッと座る影浦と、ちょこんと腰を下ろすA。

いつもとの違いは、音だろう。
空調と互いの呼吸音が、今日はよく聴こえた。




「…」

もご、もご。
Aが第一声を思案していると、対岸側は膝の上で頬杖を付いた。

「いくらでも待ってやっから、言うなら正直に頼むわ」
「…うん」



久遠とも刹那とも思えるような沈黙の後、やがてぽつぽつと追想の扉を開き始めた。




――――――――




Aには、家族がいました。

それは本当の家族ではなかったけれど、

暖かくて優しくて、
紛れもなくかけがえのない存在だったのです。





『向こう』に連れ去られ、
始めに声を掛けてきたのが1つ年上の『兄』。
Aのサイドエフェクトが発覚した後、
戦闘員として鍛え上げたり色んなことを教えてくれたりしたのが『先生』。


2人が居たから、救われた。
2人が居たから、楽しかった。

2人が居ないと、辛かった。
2人が居ないと、暇だった。


閉じ籠った世界、色褪せた箱の中で、SEを利用されて体を酷使させられる日々。

それでも、必要とされる限り体に鞭を打ち続けた。
そうすれば、2人と過ごせるから。




ただ、僅かな幸せを噛み締めながら過ごす日々は、
永遠を確約されたものでなく。





ある日、1人がいなくなった。

2人きりになった。

変わらず気丈に振舞った。

ある時、1人が変わっていった。

その1人は変わりゆく中、尚も残る理性(やさしさ)で言った。





「玄界に帰してやる。」





それが、義兄との最後の会話。





――――――――




「…そのあとボーダーでカゲを見た時、なんとなく『兄』を思い出しちゃったんだ。
何でかなあ、その人とカゲは『別人』なのに」


Aは、どこか寂寥感を湛えて淋しく笑う。


「でも、やっぱりカゲの向こうに面影を見て。
元気にしてるかな、もう一回会いたいな、って思ったりして。

だけどそれは失礼だって思ったから、
カゲの前では『向こう』の話を考えないようにしてた。

…勝手に重ねちゃったりして、ごめんなさい。」



言い訳した子供が謝るような締め括りで、語り部の蝋燭は消えた。

歪み硝子に決別を・明星→←歪み硝子に決別を・追撃



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(プロフ) - この小説大好きです。頑張ってください! (2020年3月9日 22時) (レス) id: 3553c63234 (このIDを非表示/違反報告)
ゆな(プロフ) - 続き気になります!更新頑張って下さい。 (2017年8月1日 10時) (レス) id: 05ce5fca4a (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:未紺碧 | 作成日時:2016年6月27日 18時

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