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されど視界を覆うもの・粟肌 ページ31

――ここだった。



何ともない、一言。
空間を瞬時に支配する、緊張。
誰かが、ごくりと唾を飲む。



荒「……それは、」
荒船が漸く口を開く。
隠したつもりの憐憫は、容易く仮面(ポーカーフェイス)から溢れ出た。

荒「大丈夫、だったんですか?」
Aの代わりに、眉を八の字にして声を絞り出す。



この地を指し示すということはつまり、かつての彼女の家が何らかの形で潰されたということになる。
近界民か、或いはボーダーか。
何れにせよ、既に去った家に違いないが…。



さて対する彼女は、両手でジュースカップを持ちぼんやりしている。
A「んー、大丈夫」
荒「複雑じゃないすか」
A「『ここ』に部屋も貰ったし、まあ、家みたいなもんだよ」
荒「…何か、悲しくとも?」
A「私は別に大丈夫だよ。荒船、どうどう」

ふわりと微笑すら湛え、感情の波を鎮めんとする。
かつての思い出を潰されても平然とする彼女に、荒船は違和感すら感じていた。
彼女はただ鈍感なのだろうか?



すると、黙ってやりとりを眺めていた影浦が口を挟んだ。

影「そりゃねーだろォ」
荒「…どういう意味だ?」

よっ、と起き上がる彼に、荒船が訝しげな顔を向ける。

影「オマエ、引っ越す前の家が知らねー間に建て替わったとして、悲しいとか思うのか?」
荒「俺は少し寂しいと思う。家だって形ある思い出だ」
影「ンなもん、引っ越す時に中身だけ持ってきゃいいだろが」
荒「個人の文化遺産みたいなもんだろ?」
影「スケールでけぇよ」

ゲラゲラ、と影浦が笑う。
荒船は真顔で、顎に指を添え考察する。

A「色んな考え方あるんだねえ」

そんな彼らを見て、彼女はただぼんやりと呟いた。

寂しい、など、半永久的に継続しているようなものだ。
あの日以来、彼女の本来帰る家は既に失っているのだ。

寂しい、否、寂しくない。
今の居場所はここなのだから。

言い聞かせるかのように、彼らと話題を紡いでいった。

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(プロフ) - この小説大好きです。頑張ってください! (2020年3月9日 22時) (レス) id: 3553c63234 (このIDを非表示/違反報告)
ゆな(プロフ) - 続き気になります!更新頑張って下さい。 (2017年8月1日 10時) (レス) id: 05ce5fca4a (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:未紺碧 | 作成日時:2016年6月27日 18時

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