100話 ページ50
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「……は？」
目の前に立つ見慣れた男が放った言葉に耳を疑う。
俺の聞き間違いかなって、そう思いたかったが思わせてくれない真剣な表情に頭が痛くなった。
「もっぺん言え」
小島「Aとキスしました。それは事故ですけど」
「……ほんで？」
小島「告りました」
「意味がわからへんのやけど」
低い声で威圧的に言うと、僅かに顔が強張る。
けどそんだけ。謝ったり誤魔化したり茶化したり。
俺が怒ってんのをわかってて、こいつは逃げようとせえへん。
つまり、それだけ本気ってことやろ。
「お前、何がしたいん？」
小島「……自分から言わなさそうやから。変にすれ違って喧嘩されても嫌やし」
脳裏に浮かぶのは、きっと今頃ぐるぐる考えまくって頭を抱えているであろう彼女の姿。
一人で考えすぎて沈み込むのは、あいつの悪い癖。
そうなることなんてちょっと仲が良ければわかるはずやのに。まぁ止められへんかったんやろ。
「いつから？」
小島「初めて会ったときから可愛いなとは思ってました。皆が大抵好きになるって聞いて、それもわかるなって。けどいつの間にかなくなるって感情が消えへんくて」
「お前それずっと隠すつもりやったんか？」
ぐっ、と押し黙ったのが答え。
墓場まで持っていくぐらいの覚悟やったんか。
恐らく仲のええ大晴や正門も知らへんのやろな。
小島「……言ったらちょっとすっきりしました。こんなんやったらさっさと告っとけばよかった。そしたら、」
言いかけた口が音を発さずに閉じられる。
そしたら……なんやろなぁ。もうちょい楽やったかもしれへんし、自分を偽る必要もなかったかもしれへんし？
けどそんなん結果論や。
人の彼女に手出すな。なにしとんねん。
ぶつけたい怒りを吐き出さないように唇を噛み締める。
俺も大概、あいつのことになると余裕がない。
深呼吸をして無理やりに抑え込んだ。
「告るんは好きにすればええ。別に俺の許可とる必要もないし。キスも事故ならしゃあない。でもお前だけすっきりじゃあかんやろ」
小島「……はい」
「ちゃんとせえ。俺から言えんのはそれだけ」
小島「……信用してるんすね」
「はぁ？ 当たり前やん。あいつ、俺のやから」
渡す気なんてさらさらない。
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作者名：ゆの | 作成日時：2023年1月28日 4時
