96話 ページ46
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『ほんとにね、誠也くんの全部が好き』
私に触れる優しい手のひらに唇を寄せると、珍しくびくりと跳ねる。
なにかだめなことしちゃったかなって。少しの不安に恐る恐る目線を上げて窺うと、これまた珍しく耳を赤く染めて気まずそうな表情の彼と目が合った。
『てれてる』
末「……あんま見んなや」
『えぇやだ見せて』
末「もぉ今日ほんまなんなん。なんか誰かに吹き込まれた？」
『ううん。我儘言ったら困るかなって思ってたんだけど、甘えたくなっちゃっただけ』
どうしても見られたくないのか、顔を隠す手をどかそうとしても抵抗されてしまって動かない。でも僅かに指の隙間から照れ笑いを浮かべる彼が見える。
いつもはなんてことない顔をしている彼が、私で表情を崩しているなんて。
それがどうしようもなく嬉しくて、うるさい心音のせいで胸が苦しくて、息が詰まりそうで。だいすきで。
『誠也くん、好き。だいすき』
末「ん。俺も」
『やだ。好きって言って』
末「……どうしよかなぁー」
さっきまでとは打って変わって、意地悪な彼が顔を出す。
催促するように強めに彼の名前を呼んでも、態とらしく悩んだふりをして私の反応を楽しむばかり。
たぶんいつもの私だったら「じゃあもういい」って拗ねて閉じこもる。そしてそんな私を彼が甘やかして、絆されておわり。
でも今日は違う気分だから。
少しだけ身体を起こした私を不思議そうに見つめる彼。
油断大敵だよ。
『えいっ、』
末「は、？」
ぼすん、と2人分の体重がベッドに沈み込む。
抱きつくみたいに彼の上へ乗っかり、押し倒した。
慌てたように私を退かそうとする彼を無視して胸板に頬をくっつけると、規則的で、でも凄く速い心音が聴こえてくる。
『ドキドキ、してる？』
末「……そりゃ、するやろ。好きな子にこんなくっつかれてせえへん奴おらんわ」
一向に退こうとしない私に諦めたのか、大人しくなった彼の腕が腰に回される。
それが嬉しくてまたすり寄った。
末「Aの我儘は嫌ちゃうんよなぁ」
『特別？』
末「そんなん昔っからやで。可愛くて特別で大事なんやから」
愛してる、って。
耳に寄せられた唇が囁いた、甘ったるい言葉。
思わず身を捩ると、咎めるように腕の力が強まるのだった。
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作者名：ゆの | 作成日時：2023年1月28日 4時
