78話 ページ28
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「A」
『んー？』
「ちょおこっちきて」
太腿を叩いてじーっと彼女を見つめると、誰もおらへんのをわかってんのにきょろきょろ周りを確認してから、遠慮がちに俺の膝の上に座ってきた。
可愛いなぁ、ほんま。
なんだかんだくっつくのは好きやねんな。恥ずかしがり屋なだけで。
あ、今びくってした。可愛い。
腰に手回されんの、こしょばいんかな。
「Aに見下ろされんの変な感じするわ」
『……誠也くんは上から見てもかっこいいね』
「なんなんそれ」
小さく吹き出すと、それに釣られたのか彼女もくすくすと笑いを溢す。
それも可愛くてもっと聞いていたかったはずやのに、気付けば彼女の唇を塞いでいて。
さっきまでの笑い声の代わりに響いたリップ音は、たちまち彼女の顔を真っ赤に染めていく。
「ふは、いつまで経っても慣れへんなぁ」
『ぅ、だって……』
「だって？」
『誠也くんが、かっこよすぎるのがわるい……』
そんな可愛い顔して言われてもなぁ。
どちらかといえば強気で、負けず嫌いで、甘えんのがへたくそで。
けど俺の前では弱いとこも見せてくれるから、それが愛しくて、可愛くてしゃあない。
付き合ってからの方が、Aへの想いが溢れて止まらん。
「ん」
唇を少し尖らせて目を閉じると、彼女が狼狽えた気配を感じる。
俺の言いたいことをちゃんと理解したみたいやな。
「はよしてー」
『まっ、む、むり！』
「ちょっと口くっつけるだけやん」
『心臓爆発する！！』
うっすらと彼女にバレないように目を開ける。
わたわたと落ち着きなく焦りまくっている姿に、これは無理そうやなって瞬時に判断。
いやまぁ可愛いからええねんけど。
Aからも欲しがってくれへんかなっていう男心と、今まで十分言葉や態度で想いをくれてたんやから今度は俺の番やろっていう気持ちと。
半々、ってとこやなぁ。
どうしよかなって考えだしたあたりで、突然彼女が抱きついてくる。
「わっ、どしたん？」
『……いっぱいしてくれるんじゃないの、ちゅー』
頭の中が真っ白になる。
気付いたときには、唇が吸い寄せられていた。
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作者名：ゆの | 作成日時：2023年1月28日 4時
