77話 ページ27
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やってもうたなぁ、って思ったのは右手と右足を同時に出そうとして躓きかけた彼女を見た瞬間。
俺やったら家族おったら緊張するし色々気遣うから今日にしたんやけど、失敗やったかもしれへん。
今も、どこか落ち着かない様子でソファーに座っとる彼女は手持ち無沙汰そうにすり寄るsenaを撫でていた。
「紅茶さぁ」
『ぇ、はいっ！』
「……ガムシロ何個欲しい？」
『いっ、1個で大丈夫！』
こんな警戒させるつもりやなかったし、別にそこまで手出すつもりもなかったんやけどなぁ。
Aのことになると、なんか上手くいかへんわ。
けどまぁ、びくびくしてんのも可愛いなぁ……なんて。
何でもええねん。好きなんに変わりないんやから。
準備したアイスティーとガムシロ、使うかわからへんけどミルクも持って彼女に近付く。
「ほい、どーぞ」
『ありがと……あ、』
「ん？」
『ううん。なんでもない』
ふわっと笑った彼女から緊張の色が僅かに抜けたのを感じる。
何がきっかけかわからずにこっそり観察しとると、ガムシロ2個とミルクを入れてくるくるとかき混ぜてから、また表情が綻んだ。
『誠也くんって、私のことなんでもわかってるね』
「なに、急に。全然やで」
『えぇそんなことないよ』
「今やって何で機嫌良くなったかわからんもん」
きょとん、と丸くした目が徐々に緩くなっていく。
前から思ってたけど、俺の前でだけわかりやすく顔に出んのも可愛いな。
『1個でいいって言ったのに、2個持ってきてくれたから』
「……あぁ、ガムシロ？ いつもやったら2個か3個やのに珍しいなぁって思ってん」
『慌てて答えちゃって……でも誠也くんが私を見てくれてるのがわかって嬉しかった』
彼女の言葉は少しの違和感となって俺の胸に積もる。
なんやろうな、何でこんなに自信ないんやろ。
俺は目いっぱい気持ちを伝えとるつもりやけど、まだまだなんやろうな。
それは俺がずっと誤魔化し続けた報い。
未だに彼女は、俺に好かれてる自覚が足りひん。
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作者名：ゆの | 作成日時：2023年1月28日 4時
