75話 ページ25
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末「なんか顔色悪ない？」
『……緊張で吐きそう』
なんやそれ、と他人事みたいに笑った彼は当たり前のようにポケットからキーケースを取り出し、目の前の扉を開ける。
若干キリキリと痛む胃のあたりを抑えながら続いていくと、遠くの方からチャカチャカと何かが近付いてくる音が聞こえてきた。
末「ただいま、sena。お留守番できてええ子やね」
ふわふわが彼に撫でられて気持ちよさそうな声を上げる。それをひっそりと背中越しに見ていると、まん丸の瞳が唐突に私へ向けられて、心臓が大きく跳ねた。
『お、お邪魔します……』
末「めっちゃ見られてるやん。笑」
『ね、ねぇこれ私どうしたらいいの！？』
末「撫でてあげたらええんちゃう？笑」
彼と話している間も、ふわふわの目線はずっと私に釘付けで。
触ろうとした瞬間に吠えられたらどうしようって思うと動き出すことができなくて、その場でおろおろと立ち尽くしてしまう。
だけど均衡状態はすぐに破られた。
末「お、」
『わっわ、え、』
小さめな足を一生懸命に動かして寄ってきたふわふわは、まるで待っているみたいに私の足元で座り込む。
恐る恐る伸ばした手で触れると、柔らかい毛の感触と少し高めの体温が伝わってきた。
拙いながらに撫でていると、もっと、と言わんばかりに頭を擦り付けてくる。
……かっわいい。
『誠也くん、やばい、かわいい！』
末「そりゃそやろ。うちの子やぞ」
『senaくん、よろしくね。Aです』
末「てかAに甘ない？ すぐ懐くやん」
ほんの少し不満げな顔で抱き上げた彼のことをちらりと見たsenaくんは、そのまま大人しくされるがまま。
『きっと飼い主に似たんだよ。私が困ってたから助けてくれたんだよね』
末「あーせやなぁ。女の子の好みも似とんのかもしらん」
からかい混じりの言い方で、にやりと笑って顔を近づけてくる。
キスされるんだって思わず身構えた。
それなのに一向にその感触はやってこない。
末「……こらsena」
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作者名：ゆの | 作成日時：2023年1月28日 4時
