第174話 ページ4
牽制を入れてきた言葉は、あの後優紀の心に引っかかるものがあった。
そして、答えは単純だった。
「あたし、思ったんです。西門さんには大事にしたかった女の子がいたんじゃないかって」
つくしの喉から、唾をのむ音がした。
「どうして、大勢の女の子に逃げるんですか？」
いつものような笑顔を戻した西門は、また不意を突かれたようにパーカーフェイスが崩れる。
「優紀ちゃん」
名前を呼ばれただけなのに、優紀は気迫を感じる。勝手に彼の領域に踏み込んできた優紀に対して怒っているのだ。
鼻で笑った西門の顔は、
「知ったことを言うな。俺はそういう女が一番嫌いなんだよ」
笑みが消えて、冷酷な目で言い残す。
無表情な顔は。優紀はもちろんつくしも見たことが無かった。
「ありゃ、結構怒ってんな」
「あんな西門さん、初めて見た」
一人ポツンと残された優紀の背中は寂しく、つくしは司をその場に残して優紀の傍に寄る。
「優紀、ごめんね。今、偶然立ち聞きしちゃって、あの」
傷ついた親友に何か言葉を掛けてやりたいのに、言葉が詰まってしまう。
「やだ、聞いてたつくし？」
「え？」
「きらいって言われちゃた」
優紀は普段と変わらない明るい声。西門の言葉を何も気にも留めていないような彼女に、つくしは目を瞬かせている。
「おまけに叩いちゃった。あたし、誰かを叩くの初めて。
自分の手も痛いんだね」
後姿から、泣いているだろうと予想していたつくしは思いっきり外れており、むしろ逆である。
「うん、あたし頑張る」
「え！？がんばる？何を！？」
「知りたいの西門さんの事。さっき、少し知れた気がする」
「だ…だっていま、」
優紀は首を振って、親友からの言葉を止める。
「つくし、いいの。何も言わないで、頑張れって言って」
「優…「おねがい」…頑張れ」
つくしは、優紀の声色が明るくても、肩が小刻みに震えていることに気が付いた。
強がっている親友の気持ちを無駄には出来ない。
一言いうのがやっとだった。
先に戻ると、優紀は去ってしまった。
「ま、総二郎にしちゃ誠実じゃねーの？」
司は、庭の階段に腰を掛けて夜空を見上げる。
「誠実！？あの言い方が誠実なの！？」
「あの男が一発もやらねーで断るなんて信じられねぇ」
「い、一発って…」
「お前も友達なら骨拾ってやれよ」
「縁起でもないこと言わないで！」
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作者名：たいやき | 作成日時：2018年9月15日 18時
