第149話 ページ29
「おかえりなさいませ、お嬢様」
誠は、家の扉を開けた(人1)を出迎える。
いつもなら、笑顔で「ただいま」と返してくる彼女だが、今日は違った。
目線を足のつま先に落とし表情も少し沈んでいる。
落ち込むほどのことがあったのだろうか。
「…お嬢様?」
言葉を発することもなければ、体が動くこともない。ただ、じっとその場に立つだけ。
こういった行動をする時は、(人1)が酷く悩む時や傷ついた場合である。どちらにせよ、(人1)がその話をしないのならば、誠は何も聞かず、自分の仕事をこなすだけ。
「今日はおつかれでしょう。お風呂で体を癒し、ゆっくりおやすみください」
縦に頷いた(人1)は、無言のまま入浴場へと向かう。
「誠さん、どうしたの」
「いや、何でもない」
(人1)と廊下ですれ違ったルークが、話しかけても無言の彼女を不審に思い、玄関の前に立ちつくす誠に声をかけた。
誠も分からない。
「お嬢様のことは、今日はそっとしておきなさい」
「分かった」
(人1)に長く仕える誠が何も言わないということは、彼も分からないと理解しているルークは、彼女を心配しながらも自室と戻っていった。
入浴を済ませた(人1)は髪を乾かした後、部屋のベッドに前から倒れ込んだ。
柔らかな弾力で、彼女の体を包むベッド。
「どうしたらいいのか分からない」
先程、別れたばかりの従兄である翔に言われたことを思い出し、(人1)は頭の思考回路をぐるぐると回すが、結論が出てくることはない。
すぐに結論を出すのも無理な話である。
心をモヤモヤとさせるモノを忘れようと、頭を枕に擦り付ける。
「…准一くん」
いつか見た夢と同じ景色が、また目の前に現れた。
ただ違う点があった。
以前はランドセルがあったのに、それがない。
高い位置でポニーテールに結んでいる少女は可愛い動物が模様となったリュックを背負い、キョロキョロと辺りを見回しては、誰かを探していた。
少女は公園にそびえ立つ時計台を何度も見た。
「よ、待たせたな」
制服をだらしなく着た少年がやって来る。
彼女の目は彼が来たことを知ると、目を輝かせ、少年の目の前に走り出す。
「そんな走んなくていいよ。転ぶぞ?」
少女の頭にポンポンと手を置き、歩き出した。
小学生の少女の歩く速さは、彼の速さに追いつくことが出来ず、早歩きして彼の後を追いかける。
「お兄ちゃんは、中学生?」
「そうだよ、おめぇ何歳よ」
「8歳」
「ふーん、いいなぁ。宿題とか少なくて」
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揚羽 - 面白いです!!続編も楽しみにしてますね (2021年6月13日 17時) (レス) id: c6646fb52d (このIDを非表示/違反報告)
たいやき(プロフ) - ネコさん» ありがとうございます!頑張ります (2018年6月13日 17時) (レス) id: 8ac49be7a6 (このIDを非表示/違反報告)
ネコ - part4移行おめでとうございます。更新頑張ってください応援しています。 (2018年6月11日 14時) (携帯から) (レス) id: 74ccaa5d41 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:たいやき | 作成日時:2018年6月11日 1時