めざめノ歌・II ページ10
___実の兄が出会い頭に気付かなかった程に、彼女は変わっていた。
下ろしていた長い髪を三つ編みにまとめ、伊達であったとはいえ気に入ってかけていた母の眼鏡を外し、以前の彼女からは想像もできないような頭のネジが緩んだテンション、無駄に素早い動き。
それらは、気弱でとろく、大人しかった頃のミューノとはまるで正反対の要素ばかりであった。
「ねえ、ミューノ...」
「なあに?」
「...やっぱりなんでもないよ。」
だが、ハルトはあえて押し黙ることにした。
バケモノに襲われた時の影響で彼女が変わってしまったのは、ハルトにとってもはや先刻承知の事実である。
真面目で繊細な自分の妹が、あんなことがあってそのままでいられるわけがない。
むしろもしそんなことを口に出せば、お互いの大怪我にお互いが一枚噛んでいるせいで、最悪顔向けすらできなくなってしまう。
それに我が妹は、傷の舐め合いは好まないタチである。
強い子なのだから。
「ではでは!!お目覚めの兄者に一発芸を披露するよ〜!!!
みて!!反復横飛びによる分身の術!!」
「おお〜」
掛け声と共に反復横跳び、ミューノが本当に残像で三人くらい増えた。
人数が増えたミューノにハルトが拍手する。
「...」
「......」
そして、しばしの沈黙。
会話が途切れた。
妙に間が悪い。
兄妹であるはずの二人の間には、何故だか長い時間を置いたような、こそばゆい気まずさが漂っていた。
おかしいなあ。もっと簡単に冗談を言い合える仲だったはずなのに。
そう思って目を逸らしたのは、ミューノの方であった。
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作者名:冬目 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/orazu/
作成日時:2017年10月17日 1時