あいべやノ歌・I ページ3
ポラーノの広場の食堂は、常に夜の静寂を搔き消す喧騒に溢れている。とりわけ、多くの奏者が帰ってくるこの時間帯はそれが顕著だ。
「ハル、最近どうしたんだよ。ずっとぼんやりしてるし...て、それはいつもか。」
もふもふとパンを頬張りつつ、緑の長い髪を三つ編みで纏めた少女...否、少年が、ハルトの顔を覗き込んだ。
「なんでもないよ。僕たちジンルイって不思議な存在だなって考えてただけ。」
「あんた、たまにすごい哲学的なこと考えてるよな...」
___とある二人の奏者が、ポラーノの広場の一室で食事を取りつつ談笑している。
その内の一人、小柄な少年の名を、ユメラ・アルキャードといった。
ハルトと相部屋の同居人兼友人である彼は、少女が如き庇護欲をそそられるか弱い見た目でありながら、まごうことなき男である。
可愛いという褒め言葉を極端に嫌い、言われると回し蹴りを食らわせてくる、口が滑りやすいハルトにとっては恐るべき存在である。
ユメラが口を開く。
「そうだ。今日のやぎ座が天頂に登った時間に、イーハトーヴの遺跡でまた逢魔ヶ時が起こったらしい。
...二人犠牲になった。」
「二人...だれ?」
「肝試しにあそこに入った、小さな子供達だよ。」
「そっか...今日は運がよかったね」
「そうだね」
ハルトが溜息と共に頬杖をつき、しばらく沈黙を続けたのちに、食べ終わった食器をカウンターへ持って行く。
それを合図に、ユメラも静かに席を立った。
こんな会話は、奏者の間ではもはや日常茶飯事であった。
日常茶飯事であってはならない会話なだけに、食卓を囲む二人の会話と、それが聞こえる位置にいる奏者達の穏和な雰囲気は側から見れば異様である。
彼ら奏者の数に対して守らねばならないジンルイの数はあまりにも多すぎた。
ジンルイが栄光の日々を手放し、最盛期の過半数が死滅した現在でさえ、一日に二人犠牲が出た程度で済むのは幸運な方だ。
死と隣り合わせの日常は、死という事実への嫌悪感をどうにも薄れさせる。
奏者達の半数は既に、死への恐怖を忘れてしまったいた。
「部屋へ戻ろう。明日は早いからね」
「ハル、明日はちゃんと起きてよね。起きなかったら蹴るよ」
「おっかないなあ」
ユメラが相変わらず表情筋が微動だにしないハルトに、ほんとにあんたそう思ってんのか?とでも言いたげな疑惑の視線を送る。
階段を登りきり、二人の部屋の前に差し掛かったところで、ユメラがちょいちょいとハルトのマフラーを引っ張った。
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作者名:冬目 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/orazu/
作成日時:2017年10月17日 1時