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はじまりノ歌 ページ2

きらきらと(またた)きを零す星のもと。
その淡い光を受けて、青年の髪が(にわ)かに煌めきを放っている。

「アルタイルくんは相変わらず大人しいね。他の魔楽器たちは、お手入れするときくすぐったがって動いちゃうらしいんだけど。」

淡い紫の光をたたえたホルンからチューニング管を抜き、接合部を丁寧に拭いた後、油をもう一度塗る。
薄くのばすように抜き差しを繰り返し、管の滑りが良くなったのを確認してから、青年は立ち上がった。


___この世界が昼という存在をなくしてから、幾年という時が経つ。


いつかの日のジンルイは繁栄を手放し、今まで衰退の一途を辿るばかりであった。

彼らが衰退した理由は簡単。

お布団の外が寒すぎるからである。

ジンルイがあまりの寒さに滅びかけた時、不思議な楽器を操り、お布団を天から降らせる神秘の力によって、ジンルイをぽかぽかにする者が現れた。

彼らは楽器を操ることから“奏者”と名付けられ、救世主だと称えられた。

これが、この青年のような

奏者の成り立ちである。


というのはこの青年(アホ)の壮大な妄想である。
事実なのは最初の一文のみである。
その他の部分の真偽なぞ定かではない。


奏者がこの世に生まれ落ちて幾年。

ハルト達“奏者”の成り立ちどころか“ジンルイ”の成り立ちでさえ、未だ一切が謎に包まれている。
昔にいたという“人類”が進化したとも、魔法の力で生まれたとも、その実態は諸説に埋もれて全貌を見せてはくれない。

イーハトーヴの遺跡から見つかった“人類”の資料によると、昔の人類は不死身の命を持たず、第三の目も持たず、あまつさえ空中を浮遊する能力すら無かったという。

「昔の人類は、一体どうやって生きてたんだろうね」

青年___ハルト・メーヴィンの独り言に、彼の手元のホルンが僅かに揺れる。

「アルタイルくんは、いつも昔の人類の話をすると動くんだよねえ。興味があるのかい?」

アルタイルと呼ばれたそれは、束の間たじろいだものの、少しの間を置いて再びハルトに身を預けた。
楽器に表情なんてものは存在しないが、人間に例えるならば、ジンルイの成り立ちのことを話した時のアルタイルはいつも寂しそうな表情をしている...、とハルトは思う。

「ねえ、アルタイル」


言いかけた言葉を飲み込み、ハルトは空を見上げた。


「水瓶座が天頂に来る頃だ。そろそろポラーノの広場に入らないと、ユメラくんに怒られちゃうよ」

あいべやノ歌・I→←キャラクター紹介



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作者名:冬目 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/orazu/  
作成日時:2017年10月17日 1時

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