※かけらノ歌・II ページ8
「___ああああぁぁああ!!!」
少女の甲高い悲鳴が暁の空にしばしどよめき、青々とした芝生が真っ赤に染め上げられる。
「痛い痛い痛い痛いいたいいたいいたいいたい!!」
__ミューノの左脚は、本来あるべき場所から切り離されていた。
ぼとりという鈍い音は、どうやら彼女の左足が落ちた音であったようである。
錯乱して這いずる妹を、ハルトはただただ見ているしかできないでいた。
「いかな、いかなきゃ、ミューノが死んじゃう、」
ハルトは肩で息をし、震える体をのろのろと動かした。
刹那、眼前に忽ちバケモノが出現する。
振り下ろされた攻撃を鳥渡の差で避け、ハルトは勢いをそのままにミューノの元へ飛んだ。
「お兄ちゃん、痛い、痛い、怖い」
「落ち着いて、大丈夫だから、今、」
震懾する両手で片足のない妹を持ち上げようとしたが、力が入る筈もない。
手の震えを無理矢理抑え、ハルトが死に物狂いでミューノを抱き上げると、彼女の切断面から流れ出る血がびちゃびちゃと音を立てた。
「...っ」
音に顔をしかめつつ、とち狂った笑い声を上げるバケモノから少しでも遠くへと飛ぶ。
「お兄ちゃん、私、左足が無くなっちゃった。
置いていって」
「いやだ!」
「片足がないのに私、私、どうやって生きていけばいいかわかんない」
顔を涙でぐじゅぐじゅにしたミューノが、嗚咽と共に言う。
「俺たちは不死身だから、なんとかなる筈だよ」
根拠のない鼓吹は何より虚しく、夕空にはミューノの血が線を描いている。
激しく息を切らし、ハルトは終焉の空を飛んだ。
後方のバケモノの攻撃で体に細かな傷が刻まれ、その度に速度を落としそうになるのを堪える。
_____ハルトはふと、バケモノの歪んだ口元を思い出した。
否、見えたといったほうが正しいか。
ぐちゃっ。
ハルトが急にバランスを崩し、ミューノの身体を落としてしまった。
妹は驚いていた。
彼の眼下に、妹と、布切れに包まれた棒状の物体が落ちる光景が広がる。血にまみれたそれは、赤い柱を描いて地へと落ちて行く。
___それは、自分の右腕であった。
「...はっ、は」
その瞬間、ハルトは自分の脈が早くなり、妙に口が渇いていることに気がついた。
グッと嗚咽が込み上げ、息が出来なくなる。
襲いくる激痛とショックで、彼は声を荒げる事すら出来ず、暗闇の中へその身を落とした。
ぴゅうぴゅうと風をきって自分が落ちて行く音だけが、確かに彼の耳に残っていた。
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作者名:冬目 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/orazu/
作成日時:2017年10月17日 1時