夕虹百日の旱《虹》〈1〉 (ページ24)

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握手会当日、会場付近に止められたワンボックスカーの中にはスーツを着たWEST7人が勢揃いしていた。

そのうち、藤井、重岡以外の5人には事前に用意していたスタッフ用の入館証が配られている。

もちろん偽造されたものだが、本物とはまるで区別がつかない。

「よし、行くか。」

そう重岡が声をかけ、ぞろぞろと車から降りる7人。

その顔は自信に満ち溢れていて、何一つの迷いを感じとれなかった。

「レッツゴー！」

陽気な重岡の声と共に駆け出した彼らがまず向かったのは、依頼主である十六夜真凜の控え室だった。

建物内はイベント開始直前で、スタッフがバタバタと動き回っている。

「神ちゃん、いけるか？」

「任せろ。」

重岡が声をかけたのは、懐中時計を握りしめた神山で、

以前桐山と共に天野空に接触をした時のように、時計を持つ手に力を込めると、一瞬にして、彼らの周りは静止画と化した。

「GO！」

物と人が溢れる廊下を素早く進んでいく男7人組。

その速さはまるで森の中を駆け巡る動物のようだ。

そして1つの扉の前で止まった彼ら。

この止まった建物内で動いているのは、

今ここにいる7人と、この扉の向こうに居る十六夜真凜だけ。

その証拠に濵田がノックした扉の先で、彼女らしい高い返事が聞こえた。

突然のWESTの出現に戸惑っていた十六夜だったが、

天然を爆発させる藤井や

気遣ってそんな藤井に突っ込む桐山や

落ち着いた空気が自信を持っているように見える重岡や

やたらスカートの短さを気にする小瀧や

懐中時計に夢中な神山、

そして、優しい濵田と中間のおかげで、緊張がほぐれ

段々といつもの笑顔を取り戻していった。

そんな中

十六夜真凜は、気付いたのか、

それとも、気が付かなかったのか。

彼女がふと気にかけた止まっている時計は、

神山の"特殊能力"による物だったということを。