【歌い手】人間不信。３

【第九十七話】 ページ46

『対人恐怖症』






私は対人恐怖症になったことないし、というか『○○恐怖症』というのに縁が無い。





だから対人恐怖症の人の気持ちは分からない。



そらるさんに話を聞いた時も、心のどこかで、『そんなことで普通泣く？』と思った自分がいた。





それにまだ、信じられていない自分もいる。








しかし、考えれば考えるほど、全てつじつまがあってしまうのだ。





灯麻さんに初めて会った時のことを思い浮かべる。







『・・・・っあ・・ぁ・・・・・ひっ、く・・・』




『ひっ・・・！？』









あの時の灯麻さんは、灯油さんと大違いの反応を示していた。



びくびくして、すぐ泣いて、何かから逃れるような――――――





そして、こうも言っていた。







『・・・・・・・・・・・と・・・は・・・・・・に・・・』







聞こえるか聞こえないかくらいの声で言っていたが、これはもしかして、灯油さんのことを言っていたんじゃないんだろうか。




なぜなら、灯油さんの下の名前は――――――『灯波』だから。








「・・・・っ」






なんで。




なんでずっと、黙っていたんだろう。






対人恐怖症と言うことは分かる。





でもさ、






「・・・・ぁ、だ、だからさ！私たちも、黙ってようって。





・・・そりゃあ、複雑なところもあるけど・・・





しょうがない、から」






しょうがないから。






その言葉がやけに響く。








しょうがないから。





しょうがないから。





しょうがないから。








「・・・・・・・しょうがないから？」






何かがこみ上げてくる感じがした。




それは何か黒くて、どろどろしてて、ずーっと心に残ってそうなもの。









吐き出したい。






でも、ここで吐き出したらだめ。





なぜか、そんな気がした。

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