#037 ページ2
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私は瞼を開いた
いや、開いた“感じがする”といった方が正しいのかもしれない。ぼんやりと漆黒の色を眺めていると、足元に光が宿った
ああ、覚えている。以前私はここでキーブレードを手にした事。あの“声”の者に力を貸してくれていた事も
ここへ訪れた事を全て鮮明に思い出すと、あの時のように声が、壁の無い空中に広がり、反響することなく響いてくる
『久しぶりだね、サツキ』
「久しぶりって……、あれからどれくらいの時間が経ったの?」
『一年』。長くて、短いような時がいつの間に過ぎていた事に私は驚く
ふと思い返すと、三人の妖精が私の本当の年を「16歳」だと告げた。その時から気づくべきだったのかもしれない
『一年という時が過ぎた事によって君の力は、簡単に言えば振り出しに戻った』
「振り出し」その言葉に私はつい肩を落とす
しかし「やり直す」という意味ではないと、“声”は語る
『君はある事によって、強制的に散らばめられていた記憶の欠片が一つに集めさせられ、そこから再び生まれた憎悪や、負の感情が湧いて暴走を引き起こした
負の感情から耐えきれなくなった、君の内の闇が増幅してしまった事が原因だね
闇に堕ちてしまう事を阻止しようと、集めさせられた記憶の欠片を再び散らばせて、その感情を忘れるようにと君はまた記憶を失う事になったんだ』
『君の力は心だけじゃなくて、記憶も関係しているから、一度増幅してしまった力から一気に解き放たれてしまった事で失う必要がなかった力も、失われた
というわけだね』
つらつらと並べられる単語と言葉に、たまにちんぷんかんぷんと訳がわからなくなるが、なんとか私は全ての言葉を拾い上げ、理解する
「じゃあ、今使える力があるとしたら、何が使えるの?」
『キーブレードじゃ開けられない扉、とか?』
「それじゃあ前と何も変わらないじゃん」
『大丈夫、何かあれば僕が君をサポートするから』
私は疑問に思った
以前は、そう簡単には会えない、話をする事
も出来ないと言っていたはずだ
この疑問を相手にぶつけると『これも一年の間に色々あってね…』大体予想していた通りの事が返ってきたため、また今度と止めた
「てことは、君にはまたお世話になるということか」
『そういうことになるね』
「じゃあ、これからよろしくね」
『うん、よろしく』
視界がだんだん明るくなっていく
目覚めの時だ
現実の私が起きる事を待って、私は瞼を閉じる
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