油蝉 (ページ3)

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晩夏ページ3

再会は案外近いなんて、冗談でも言うものではないですね。本当にもう長くないみたい。

　孫たちが来る少し前に、倒れてしまったの。あなたなしで夏を越えられるほど、私は強くなかった……ということかしら。

　倒れたことを聞いて、雄介が飛んできてくれたわ。親孝行な息子を持ったみたいで、私たちは幸せね。

　お医者さんにもこの夏を越えられるか、なんて言われたけれど、きっと無理ね。

　わかるわ、自分のことですもの。

　もうずっと眠たいの。

　ふと目を閉じれば、油蝉の声の中に、あなたの声が聞こえる。

　あなたは死んで、油蝉に生まれ変われたのかしら。もしそうだったら、この蝉の声の中にあなたの声が聞こえるのも、幻聴じゃないのかもしれませんね。

　でもね、もしあなたが許してくれるのであれば、私はまた人間として生まれ変わりたいわ。

　人の生は無駄に長くて、退屈な時間が多くて嫌になってしまうけれど、あなたさえいれば幸せだったって笑える気がするの。

　だから、まだ生まれ変わらず待っててください。

　私の我儘をどうか聞いてください。

　あなたがいない夏は何でか酷く寒いの。

　寒々しくて、虚しくて、どうしようもないくらいに寂しいの。

　だから、もしそっちに逝った時にはどうか強く抱きしめてね。

　惚れた女のその程度の頼み、あなたなら聞いてくれるでしょう？

　あぁ、何だか、もう眠くなってきたわ。

　あんなに五月蠅いと思っていた油蝉の声も今は心地よいとも感じる。

　死ぬって意外に安らかなのね、もっと恐いものだと思ってわ。

　ちっとも恐くない。

　あなたに会える死よりも、あなたのいない生の方がずっと恐くて堪らなかった。

　孫たちの成長を見届けるだとか、息子たちがお爺ちゃんになった姿を見るだとか、後悔は沢山あるけれど、悲しくはありません。

　だって私は、あなたに会いたくて仕方がなかった。