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光の届かぬ暗く影を落とした森の中に、ひっそりと佇む洋館があった。生気の感じられない館だが、そこには確かに住人が存在していた。
『お母様、どうして屋敷から出てはならないの?』
白い髪を長く伸ばした少女が母親らしき女性に問いかけた。その親子の眼はどちらも血のように深い赤だ。
「外には、私たちを狙うハンターがいるのよ。外の世界は危険だから私たちは人間のいない所で暮らすの」
母親が優しく諭すように教える。だが少女には言葉の意味がよく分かっていないらしく、首を傾げたままだ。
「大丈夫よ、Aももう少し大人になったら自然にわかるわ」
そういって微笑む母親に、少女も答えるようにして微笑んだ。
──この数ヶ月後、ハンターの襲撃によって屋敷は燃え盛る炎に包まれた。
歳の変わらぬ兄が妹を守るように必死で抱え込み、妹であるその少女は訳も分からずその腕の中で震えている。
外からは大地を震わすような轟音が鳴り響いており、その中に混じって怒号がかすかに聞こえる。
幼い兄妹を見つけた母が、勤めて冷静に声をかけた。
「A、カルム、今すぐここから逃げなさい」
『お父様とお母様は……?』
「……大丈夫、すぐに行くから。……カルム、賢い貴方ならやるべき事はきっとわかっているはずよ。……Aをお願いね」
「……わかった」
兄がしっかりと頷くのを見ると、母は二人を屋敷の裏口へと連れ出した。少女が何度も後ろを振り向くが兄がそれを引っ張る。
母は、それを笑うような、泣いているような顔で見ていた。そして何かを振り切るように背を向ける。
『お母様!!』
──母と言葉を交わしたのは、それで最後になった。ハンターの襲撃が収まり、屋敷に戻った兄妹を出迎えたのは、荒れて朽ち果てた屋敷だけでそこには父の姿も母の姿も無い。
幼い兄妹は、身一つでこの世に放り出されてしまった。そんな二人が行き着いたのは、この世の全てを受け入れる場所──流星街だった。
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作者名:Y.N | 作成日時:2022年12月5日 8時