第三十八話 ページ40
それから一ヶ月が経った。
昼と夜が繰り返され、街では悲劇と喜劇が繰り返された。
『荒覇吐事件』と名付けられた一連の破壊騒動は、蘭堂の単独犯として処理された。
マフィアを裏切った蘭堂の家は焼かれ、持ち物は海に捨てられた。
普通ならばマフィアの手続きとして裏切り者には親族まで及ぶ制裁が待っていたが、蘭堂には親族や身寄りと呼べるものは存在しなかった。
遺体は一週間野ざらしにされた後、鄙びた共同墓地に埋葬された。
共同墓地に、海からの濃い潮風が吹きつける。
人里から離れた寂れた墓地。崖に迫り出すように並んだ、碑銘のない無表情の墓石の群れ。崖のすぐ先は海で、強い潮風に晒された墓石はどれも物悲しげに傾いている。
その墓石のひとつに少年が一人、砕けた姿勢で腰掛けていた。その隣には少年の妹である少女も一人、並んで座っていた。
「全く、死んだ後まで迷惑なオッサンだぜ。
あんたが生前集めた記録は、全部マフィアに捨てられちまった。おかげで調査は一苦労だ。
八年前にあんたが潜入した軍の施設ってのが何だったのか、《荒覇吐》は何故そこにいたのか、これで手がかりはなくなっちまった」
中也の視線の先には、白く新しい墓標がある。
どこかから調達してきた古い石らしく、ところどころ欠けて崩れている。
墓石の根元に小さな蒲公英が一輪、儚げに咲いて揺れていた。
「まあ、仮にあんたが生きてても、そのへんの話は誰にも云わなかったんだろうけどな……」
「……お兄ちゃん…」
心配そうな顔で中也を見る優羽。そんな彼女の頭を荒く撫でる中也は「心配すんな」と笑った。
「んじゃそろそろ行くか」
「うん。蘭堂さん、またね」
「また来るぜ、オッサン」
崖に面した小径を歩いていく中原兄妹の眼前を、少年の姿が遮った。
「ここにいたのか。探したんだぜ、中也、優羽」
「白瀬……」
銀髪の少年だった。電子遊戯場で中也達を探していた《羊》の三人組のうちの一人だ。
「俺達に何か話でも?」
「お前に謝ろうと思ってさ」
銀髪の少年は肩をすくめた。
「前に口喧嘩しちゃっただろ?電子遊戯場でさ。
あの後、僕も反省したんだ。おまえのやりたいことを、僕達の都合で邪魔しちゃ駄目ってね。
あの時お前は、どうしても犯人を捕まえたかったんだろ?それなのに僕達は《羊》の報復作戦を優先しろ、なんて云っちゃって……正しいのはお前のほうだ。
お前に頼りっきりで他の方法を作ってこなかった、僕達が悪かったんだよ」
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作者名:十六夜紅葉×山吹 x他2人 | 作者ホームページ:http://yuuha0421
作成日時:2023年6月15日 20時