第三十四話 ページ36
太宰はふらついた足取りで瓦礫の中也のところまで行った。そんな太宰を支えようと佑子も動こうとするが太宰は「平気だから」と彼女の手を払いのけた。
「兄さん……でも、」
「いいから。ユウ、僕は死ぬつもりなんてないよ」
その言葉に佑子は少し目を見開いた。
いつも死に場所を探していた兄の死んだ目が、少し光を宿したのを佑子は目にしたからだ。
佑子はこくりと頷き、太宰に背を向ける。
そしてそのまま彼と距離を取り優羽に近づいた。
優羽は何も言わずに迎え入れてくれた。
「……兄さんが何か作戦を立てるみたい」
「そっか。私達は私達の出来ることをしよう」
うん、と返事した佑子は何やら話している兄二人を見つめ頬を緩ませたのだった。
程なくして二人は立ち上がり、並んで蘭堂のほうへと歩き出した。
「説得は済んだかな？」
「ああ」
太宰は歩きながら云った。
「説得はうまくいったよ。中也から、僕への説得がね…今は死なないことに決めた」
蘭堂は一瞬だけ当惑の表情を見せた。
それから仕方なさそうに笑った。
「そうか。森殿が聞いたら飛び上がって喜びそうな台詞だ。本来ならば祝福すべき状況なのだろうが……なるべく苦しませず死なせられるよう努力しよう」
「云ってくれるじゃねえか」
中也が唇の端で笑った。
「あんた、俺が今どんな気持ちか判るか？」
「さて……想像もつかぬ」
「嬉しいんだよ。久々にこの両手を使って戦えるのがなァ！」
中也は前に飛び出した。
そんな中也に続くように優羽も飛び出した。
「お兄ちゃん、作戦は？」
「んなもん、いつも通りだ！！行くぞ優羽！！」
「はいはーい。もう…あんまはしゃぎすぎないでよね」
そんな二人を見つめつつ、佑子は兄である太宰を見る。
「兄さんは私が守るから。作戦に集中してよね」
「それは心強い。僕はいい妹を持ったなぁ」
「……異能力」
佑子は太宰の一言に返答せず異能を発動する。
「『笑いオオカミ』」
佑子の姿は忽ち変わる。
ピンとたった耳にふさふさの尻尾。
人間の身長を優に超え、太宰の前に立ち塞がるその姿はまさに獣。
完全なる獣の姿になった佑子はこちらに向かってくる先代に歯を剥き出し唸るとタッと地面を蹴った。
大口を開け先代の腰部分を噛む。
先代の腰当たりに歯が食い込み、血が吹き出した。
血を浴びようと噛みちぎるため、歯に力を込める佑子だが、
「ぎゃん！！」
大きく振られた鎌が彼女の目に突き刺さり情けない声を上げた。
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作者名：十六夜紅葉×山吹 x他2人 | 作者ホームページ：http://yuuha0421
作成日時：2023年6月15日 20時
