第三十二話 ページ34
何条もの爆裂が殺到した。赤く凝固したした空間波の壁を横向きに駆けながら回避していく。
一瞬前まで中也のいた壁が、紙細工のように破れるように次々に粉砕されていった。
鉄柱さえへし折る強力な攻撃。もう一度まともに喰らえば、中也といえど二度と立てないだらう。
「幾ら君でも、空間自体から逃げ続けることはできぬ」
壁を蹴って跳んだ先にも衝撃波。己にかかる重力を制御する中也であっても、空中での機動力は地上の時と較べると大幅に落ちる。逃げきれない。
「はは。この程度で追い詰めた心算かよ?」
中也は身を翻しーーー何もない空中を蹴って衝撃波を避けた。
中也の靴裏が蹴ったのは、ほんの小さな建物の破片だった。小指の先ほどの大きさしかない壁の破片を空中で蹴り、同時に破片の重力を極大化、そして自分の重力を極小化。質量比を逆転させ、大岩を蹴って跳んだ鼯鼠のように、足がかりのない空中で素早く方向転換したのだ。
それは妹である優羽も同じだった。
中原兄妹にむけ連続空間波が襲う。だが中也達は破片を連続で蹴り、次々に衝撃を回避していく。
「素晴らしい戦闘の才。だが、逃げてばかりでは孰れ追い詰められるぞ少年」
下方向に回避した中也にさらに空間波が襲いかかる。
亜空間にいる限り、攻撃から逃れる術はない。
質量を持たない空間そのものによる攻撃のため、重力でそらすこともできない。まさに中也の天敵といえる能力だった。
だが。
「忘れっぽいんじゃねえかオッサン」
衝撃波が中也に殺到し、直前で雲散霧消した。
中也が盾を掲げて、衝撃波を防いだのだ。
「ちょっと服引っ張らないでくれる?襟のところが痛い!」
盾が喋った。
「太宰君……か」
「こいつは異能を無効化させる」
中也が太宰を摑んだまま云った。
「こいつ自身に触れねえように亜空間を展開することは出来ても、攻撃を届かせる事はできねえ。欧州の異能諜報員が聞いて呆れるぜ。こんな奴の無効化も突破できねえなんてな」
「うむ……その通りである。私の目から見ても太宰君の存在は異端……欧州にすら存在せぬ、究極の反異能者。しかし」
蘭堂が手を掲げた。
「中也君!僕を思いきり後ろに引け!」
太宰が中也に向けて叫ぶと同時に銀の閃光が奔るのがほぼ同時だった。
空間が切断された。
銀色の一閃が一瞬前まで太宰の首があった部分を両断していた。鎌の先端が太宰の服、皮膚、筋肉の一部を引っ掻き、血の飛沫を纏って通り抜ける。
「っ!!兄さん!!!」
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作者名:十六夜紅葉×山吹 x他2人 | 作者ホームページ:http://yuuha0421
作成日時:2023年6月15日 20時