第二十六話 ページ28
「それ以前は細々とした噂だけ流通してたようだけど」
不意に太宰が口を挟んだ。
「じゃあ、被害が確認できる一番古い噂はいつ?」
全員が太宰を見る。
「おい……中也?誰だこいつ?入団希望者か?」
「まあ……そんなところだ」
中也は太宰を睨んでから《羊》に目を戻した。
「悪いが、こいつの質問に答えてやってくれ」
「まあいいけど……」
納得のいかない顔で中也と太宰を見比べてから銀髪の少年は云った。
「具体的な被害がある古い噂って云えば、多分八年前だな。大戦の末期、擂鉢街をつくった巨大爆発。《荒覇吐》が実際に出した被害としては、これ以前にはねえ」
「やっぱりね」
ひとり得心顔で頷く太宰。
「なあ中也。それに優羽も、コイツ本当に《羊》の新入りか?幾らお前でも、独断で新顔を入れる事はできないんだぞ。確かにお前達は一番強いし、一番組織に貢献してる。でも名目上は一応。十三人いる『評議会』の一人ってことになってる。お前は、いやお前らは強権横暴だって批判は前から皆が」
「判ってる」
「そうか?……ならいいけど。ま、云いたい奴には云わせとけって話だよ。実際お前らの力は皆が頼りにしてる。それは確かなんだからさ」
銀髪の少年は慣れた様子で中也と優羽の方を気安く叩いた。
「早速戻って奪還計画を立てようぜ。晶達が攫われたのは川の向こうの工場通りだ。実はその時、僕もそこにいた。隠れてどうにかやり過ごしたんだ」
「待って。工場通りに行ったの!?」
「お前達、また酒盗みに行ったのかよ?抗争の真っ最中だぞ!それもあんなマフィア拠点の近くの……誘拐してくれって云ってるようなモンじゃねえか!」
「二人して怒るなよ。人を殺しに行った訳じゃない。防衛主義の掟は守ってる。それにいい機会じゃないか。《羊》は唯一反撃主義、手を出せば百倍返しだろ?」
「ああ。だが」
「中也だっていつも云ってるじゃないか。『他人とは違う手札を持ってる人間は、その責任を果たすべきだ』って。異能の手札の責任を果たしてくれよな、中也!」
銀髪の少年が中也の肩を抱えて歩き出した。
「さあ、行こうぜ!優羽も!!」
急に拍手の音が響いた。
「面白い。実にに面白いよ君達。あれ程戦闘狂の中也君がまるで狼に睨まれた羊だ。どうも組織の頂点に立つってのは想像よりもずっと大変なものらしいね。後で肩揉んであげようっと」
「兄さん、ホットアイマスクも使った方がいい?」
「ユウ、それは名案だ!そうしようか!!」
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作者名:十六夜紅葉×山吹 x他2人 | 作者ホームページ:http://yuuha0421
作成日時:2023年6月15日 20時