第二十三話 ページ25
「__あれは、擂鉢街のほぼ中心地での出来事であった。
マフィアは羊の武装少年達と戦っていた。どちらが最初の原因かなどもはや誰も記憶していない。明確な善悪の因果があることは我々の世界にはほとんどない。今更云うまでもないが。ちょうど抗争へ向かう途中だった。いきなり黒い爆風に、我々全員が吹き飛ばされたのは。この爆発に比べれば、先程の爆発など赤子のくしゃみのようなものだ。異能によって亜空間を展開していたため、私だけは何とか生き残った。それは___そこにあった世界は、とても一言では言い表せん。あえて形容するならば___それは地獄であった。その奈落の中心にそいつはいた。
・・・獣。黒き獣だった。四足歩行の獣。毛皮は炎。太い尾も炎。この世界の根源そのもののエネルギィが具現化した姿とでも云おうか。間違いなく云えるのは、そこに悪意はなく、怒りもなかった。敵の異能かも知れぬ。そう思ったが周囲には異能者はいなかった。何も見ることができなかった。風景すら存在しなかった。
地上のあらゆるものが高温で揺らめいていた。空の色さえ定かに見えぬ程であった。この世のすべてが幽鬼に変わってしまったかのようだった。ただ横浜の海が、遠くに眺めるあの海だけが、どこにいても変わらぬ灰色の鋼の表面のように静かに凪いでいたのを妙に憶えている。
すべてを消し飛ばした獣がこちらを見た。次の瞬間、信じられぬことが起こった。
私の異能__亜空間領域に罅が入ったのだ。
空間そのものが異なる場合、それを飛び越えることは決してない。だが、物理法則を超えてきたのだ。私はすぐさま亜空間を張り直した。見えない何かが私に叩きつけられた。私が意識を失う寸前、獣の咆哮を聞いた気がした。どんな抗争より恐ろしかった。
空中を舞い、地面を転がった。今こうして生きているのは、まったくの幸運でしかない。奴に私を殺そうとする意志がほんの毛一本分でもあれば、私は即死していた筈だ。洪水に意志はない。火山に意志はない。台風にも、落雷にも、津波にも意志はない。だが大勢の人を一瞬で殺す。あの獣はそういったものだ。そのような存在をこの国では神と呼ぶ。それ以外に、どんな呼びようがある?」
たしかに、その通りだと思う。
「すまない・・・。君たちは先代の復活を荒覇吐の力のおかげではなく、敵異能者による偽装であると証明したかったのだろう。君たちの調査が無駄足になるやも」
「いや、なかなかに興味深い話だったよ」
なんとなく、判ったしね。
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作者名:十六夜紅葉×山吹 x他2人 | 作者ホームページ:http://yuuha0421
作成日時:2023年6月15日 20時