第二十話 ページ22
「却説」
中也は残り一人になった敵に目を向ける。
敵の小銃は予備の弾倉まで撃ち尽くし、引き金はカチカチと軽い音を空しく響かせてきた。
「終わりだ。襲撃の目的を教えろ」
林の中を中也は近づいていく。
「《荒覇吐》について知っている事は？何故マフィアの準幹部を狙った」
「くそ……お前らみたいなガキに……！」
最後の敵は小銃を捨て腰の予備拳銃を抜いて構えた。
「やめとけ」
中也は表情すら変えない。
「どうせその怪我じゃろくに中りゃしねえ。撃つだけ危険だ」
「死ね……！」
銃が発射された。
中也は重力操作で弾丸を無効化しようとしたーーが、できなかった。するまでもなかったのだ。怪我のせいで弾丸の狙いがそれ、中也の頭の横を通り過ぎた。
その弾丸は背後の大木に命中し、固い木肌に撥ね返された。時速一千粁で飛翔する銃弾は撥ね返った後でも相応の速度を保有する。
対人用柔弾頭が潰れ、螺旋回転から不規則回転へと変化した銃弾は危険な跳弾となって持ち主へ真っ直ぐ返っていった。
潰れた弾丸が男の首に突き刺さる。
驚きの叫びを上げることもできず、男は仰向けに倒れた。少し遅れて血液が噴出する。
不運な事故。戦場ではごくありふれた事態だ。
一部始終を目撃していた優羽は「南無」と手を合わせ、中也は眉をひそめ小さく舌打ちをする。
佑子は何も言わずに兄に寄り添った。兄である太宰はふらふらと倒れた男の許へと近づき、その顔の隣にしゃがみこむ。
「運がなかったねえ。苦しいかい？」
太宰の表情は平坦だった。だが瞳の奥にはかすかに消防士に憧れる少年が消防士を見るときのような輝きが小さく揺らめいている。
「…跳弾が喉元に突き刺さっている。今から手当してもこの傷じゃ助からない」
「それでも死ぬまでに五分ほどかかるだろう。銃なんか使うべきじゃなかったんだ」
太宰は首を小さく振った。
「その五分は地獄の苦しみだ。僕なら耐えられないね。どうする？この銃で苦しみを終わらせて欲しいかい？
僕達はマフィアのために仕事をしている。つまり君達の敵だ。でも君の死という貴重なモノを見させて貰ったし、僕としてはそのお礼がしたいんだ。さあお願いするなら喋れなくなる前にした方がいい」
男の目に絶望の光が揺らめいた。
「……て……撃っ、てく……れ……」
「いいとも」
佑子は近くに落ちていた拳銃を拾い、太宰の手に落とした。太宰は拳銃を受け取るとそのまま立ち上がり銃の引き金を引いた。
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作者名：十六夜紅葉×山吹 x他2人 | 作者ホームページ：http://yuuha0421
作成日時：2023年6月15日 20時
