第十八話 ページ20
男は顔を引き攣らせた。
《GSS》、すなわちゲルハルト・セキユリテヰ・サアビスは、マフィアと対立する半非合法組織のひとつだ。
元は海外資本の真っ当な民間警備会社だったが、本国からの援助打ち切りを受けた後に非合法化し、今は安全の保障だけでなく危険の創造にも荷担している。
一般的に云えば「海賊」だ。契約していない企業の船を襲撃し、積み荷を奪う。ただし、《GSS》と警備契約を結んだ企業は襲われない。悪名がそのまま顧客獲得広報になる、一挙両得の副業だ。
そしてその副業で何度かポートマフィアの荷を沈め、二つの組織は現在極めて険悪な関係にある。訓練教官が本物の軍人であるために構成員の戦闘練度が高く、マフィアも苦戦を強いられている。
「ほら、早く撃てよ」
自分の額を銃口に押しつけて中也は笑った。
男が引き金を引こうと指に力を込めた。だが撃てない。銃口が徐々に下に降りていく。
「何、だ……銃が、重い……！」
「この程度の重さでへばるなよ。男の子だろ？」
中也が銃に優しく触れている。それだけで、軽量の拳銃が巨大な鉄塊に変わってしまったかのように男の手にのしかかる。
中也が拳銃を軽くつつくと、いきなり拳銃が男の胸めがけて横向きに落下した。大砲のような重量で、拳銃が男の防弾外衣にめり込む。
胸の骨が衝撃で軋む。
男は悲鳴をあげた。胸を押さえて後ずさる男の足下に、拳銃が落ちてカランと軽い音を立てた。中也の手を離れたため、先程の重量は既に消えている。
「重力を操る子供……真逆、《羊》の中原中也か……？」
男が胸を押さえたまま呻いた。
「マフィアに降ったという噂は本当だったか！」
男が怒声とともに拳を放った。
腰の回転を利用し、最小距離で突き刺さる逆突きだ。
「……あァ？」
軍隊仕込みの逆突きが中也に到達するよりも早く、黒い旋風が男の顎に叩き込まれた。ハンマーのように打ち込まれたのは中也の右踵。中也が飛び上がって放った高速後ろ回し蹴りが直撃したのだ。
そんな中也を優羽はあちゃーって顔をし手で顔を覆う。
「マフィアの傘下になんぞ降ってねえ。腹立つ勘違いすんな莫迦野郎」
「いやもう相手、気絶してるし。聞こえてないよ、お兄ちゃん」
「うっせぇ！！んなことわかってんだよ」
脳震盪を起こし仰向けに気絶している男にフンと鼻を鳴らす中也。
「はあお美事」
乾いた拍手があがった。
「敵が直線で放った拳よりも、それに反応して放った回転軌道の蹴りの方が疾いとはね」
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作者名：十六夜紅葉×山吹 x他2人 | 作者ホームページ：http://yuuha0421
作成日時：2023年6月15日 20時
