第十六話 ページ18
やいのやいの言い争う二人。そんな二人をただただ見つめる佑子は無表情ながらもポツリつぶやいた。
「兄さん、楽しそう」
「……え。あの状況みて言う？？」
ギョッとした顔で佑子を見る優羽に佑子は頷いた。
「いつもの兄さんなら森さんに言われた指示であれば例え嫌いな相手でも淡々とこなす。まあ同年代の人が近くにいないというのも一つの理由かもしれないけど……」
そう言葉を切ると佑子はすん、と鼻を鳴らす。
「今の兄さんは嫌いじゃない」
「……そっか」
優羽は自分の兄に目をやる。兄は太宰に揶揄われ怒りを露わにしていた。
「《羊》にいた時のお兄ちゃん、やっぱりリーダーとしての責任感があるのか常にピリピリしていた。《羊》のメンバーを守るために考えて、動いて……でも、今のお兄ちゃん、生き生きしてる。そう考えるとこの出会いに感謝しなくちゃいけないね」
そう云って笑う優羽に佑子は小さく頷いた。
「……兄さん」
「ん？なんだい」
佑子が呼ぶと太宰は振り返った。
中也の時には返事はおろか振り返らなかったというのに。しかしその瞳は何を考えているのかわからない。
……でも。佑子は真っ直ぐに太宰を見つめた。
「……何でもない」
「？変なユウ」
太宰は不思議そうな顔をする。
「出会いに感謝……だね」
「はっ？」
もしかしたら優羽との会話を聞いていたのかもしれない。彼女が指す言葉を太宰は理解し、嫌そうな顔をする兄に佑子は何も言わなかった。
「な、なァ」
それから少し歩いたところで佑子は中也に声をかけられた。太宰から距離を取り、スススと中也は佑子に近付く。佑子が中也の方を見ると彼は言いにくそうな顔をしている。
「……腹の具合、大丈夫か？」
「……？」
突然の問いかけに佑子は首を傾げた。彼は視線を下げ佑子の腹を見つめている。
「お腹なら空いてないけど」
「違ぇよ。ほらお前のこと蹴っちまっただろ。太宰を蹴るつもりが…そのお前を蹴っちまったから……大丈夫かと思ってよ」
「……ああ」
佑子はあの時のことを思い出したのか声を零した。
「みる？」
「……は？いやちょ……！！」
佑子はそういうとスーツに手をかけ腹部を出した。
ギョッとする中也は慌てて顔を背けるが、背ける一瞬、中也の視界に佑子の肌白い腹部が映りこみ顔を赤らめる。
「ユウ！！こんな道中で何してんの」
先を歩いていた太宰が慌ててこちらに駆け寄ってくるのが見えた。
「中也君が怪我の具合みたいって」
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作者名：十六夜紅葉×山吹 x他2人 | 作者ホームページ：http://yuuha0421
作成日時：2023年6月15日 20時
