第十二話 ページ14
「勿論。私は構わないよ。
中也君、傘下に入れという先程の言葉は撤回しよう。
代わりに共同調査を申し出たい。我々が調べた先代復活の噂と君達が追う《荒覇吐》は明らかに同根の事件だ。
情報を分け合うだけで互いに利ある結果をもたらすと思うのだがね」
「……もし断ったら?」
「
森は云った。
珈琲に砂糖を入れる時のような、当たり前の口調で。
「尤も君達を殺すのはマフィアでも骨が折れるだろう。だから君達の仲間を、《羊》を殺す。どうかな?」
中也の拘束が弾け飛んだ。
膂力と異能により鎖や拘束具が弾け、壁や天井にめり込んだ。
「ぶっ殺す!」
中也は飛んだ。お兄ちゃん!という優羽の制す声を聞かなかったことにして。
一瞬で森との距離を詰め、右拳を叩きつける。
その拳はーー直前で止まった。
微笑む森の眼前で、振り抜かれる寸前の拳が停止していた。その拳の前には森がいつの間にか掲げてみせた黒い通信機がある。
『おい中也、優羽!!助けてくれ!そこにいるんだろ?』
通信機から年若い声が流れてきた。
『マフィアに囲まれてる!早く何とかしてくれよ!なあ!お前達なら出来るだろ、いつもみてぇに……!』
森が釦を押すと通話は途切れた。
固く握られた中也の拳が震えた。
「実に簡単だったよ。銃で武装していても、彼等の練度は実にお粗末なものだ」
森は肩をすくめた。
「《羊》……横浜の一等地に縄張りを構える、反撃主義の組織。だが君や君の妹以外の構成員は、銃を持った普通の子供だ。全く奇妙な組織だねえ」
中也の拳が硬く震えた。だがその場で静止したまま動かない。動かす訳にはいかないのだ。
「同じ長として心中察するよ、中也君。強大な武装組織である《羊》がその実、絶対的な強さの王と、それにぶら下がり依存するだけの草食動物の群れだったとはね。組織運営に関しては、どうやら私が君に助言できる事の方が多そうだ」
中也が食いしばった歯の奥で唸った。
「どうしたのかね?その拳は何だ。健康のための運動かい?」
森は涼しい顔で振り上げた中也の拳をつついてみせた。
ひりついた時間が流れた。やがて中也はゆっくりとした動作で拳を下ろした。拳を下ろした彼に優羽ははっと我に返り中也に近付く。
お兄ちゃん、と心配そうな顔で中也の顔を覗き込む優羽に中也は何も言わずぐしゃっと優羽の頭を荒く撫でた。まるで、平気だというかのように。
「不利益が利益を上回るように、つったな」
中也は森を睨んだ。
1人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:十六夜紅葉×山吹 x他2人 | 作者ホームページ:http://yuuha0421
作成日時:2023年6月15日 20時