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第十話 ページ12

「冷静にって……お前、マフィアがこの街に何をしたか忘れたのか」

「……嗚呼。先代の暴走か。そのことについては私としても心を痛めている」

森は真意のはっきりしない顔で云った。


先代の暴走────
横浜一帯を長く暴虐の恐怖に陥れた『血の暴政』は誰の記憶にも未だ新しい惨劇だった。

とある日には町の赤毛の少年が皆殺しにされた。
首領の車に一人の赤毛の少年が悪戯書きをしたという理由だけで。

とある日にはひもつの集合住宅に住む住人が貯水槽に投げ込まれた毒で全員死亡した。敵対組織の幹部が、その集合住宅に隠れている可能性が少しあるという理由だけで。

またとある日には、ポートマフィアの悪口を云った者は死刑とする触れを近隣一帯に出した。さらに他者の悪口を密告した者への褒賞もつけた。そのために何年も街全体が、中世の魔女裁判さながらの疑心暗鬼に覆われた。

裏切りの都で、処刑された死者の数は千人を下らない。
中には冤罪と判っていて殺した例もあったらしい。

逆らえは皆殺し。それに異を唱えても皆殺し。

夜の暴帝と、その死兵。

それがポートマフィアの代名詞だった。

「だがその先代も病死した。最期は私が看取った。……もしかの暴帝が復活したなどという噂があるなら、その真相を確かめねば君達も不安じゃあないかな?」

中也はすぐには答えず、優羽を見る。
優羽も何も言わずに中也を見返した。言いたいことがあるなら言ったらいい。そんな思いを視線に込めて。

中也は刃物のような目で森を睨み口を開く。

「だとしても……お前に顎で使われる理由にはならねえよ街医者。あんたに関しても良くない噂は出回っているぜ。

本当は先代は病死じゃなく、あんたが殺したんじゃないかってな。

そうだろ?たかが専属医に首領の座を譲るなんて遺言、信じられる訳ねえじゃからな。違うなら違うって証明してみろよ。

あんたが死神の地位を欲した権力欲の権化じゃねえって事を今ここで証明できんのかよ?できねえだろ?」

森による先代殺しは組織でも秘中の秘だった。

真実を知る者は太宰治の他には誰もいない。

「証明は出来ないね。何故なら」

森は肩をすくめて云った。太宰は森を見てその表情の変化に素早く気づいた。そして止めようと口を開いた。だがそれよりも早く森は云った。

何故なら(、、、、)先代は私が殺したからだ(、、、、、、、、、、、)

部屋の温度が数度下がった。
ここにきて初めて、中也と優羽は言葉を失った。

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作者名:十六夜紅葉×山吹 x他2人 | 作者ホームページ:http://yuuha0421  
作成日時:2023年6月15日 20時

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