第八話 ページ10
最悪だ最悪だ最悪だ…!!
其の後悔だけが残っている。
だけど、翼さんの云った「またね」と云う言葉が引っ掛かってもいる。
こちら側に亦はない。
元々はこちらの人間なのだから、それはわかっている筈なのに……
脳が揺れる感覚がした。
あの日の夢の様な感覚、姉君との最期の会合。
其のどれも今の俺にはない。
あの千切れた脚を見てから様子がおかしい。
もう何も入っていない筈の胃の中が逆流する様な感覚、喉奥に残る異物感、口内に広がる鉄の味……
記憶が掠れてしまっても、感覚だけを覚えている。
口内、喉奥、胃内の不快感を手元にあった飲み水を一気に飲み干し、口元を拭った。
そんな様子を見ていた芥川さんに
「蓮、如何した。」
と聞かれてしまった。
『…いや、過去の事を思い出していただけ。
心配しないで』
普段であれば気の抜けた返事をする所でも、普通の対応をしてしまった。
そして、顔を上げた俺の顔を見て芥川さんは目を見開いき、驚く様な仕草をした。
「蓮、目の下の紋様を消したのか?」
そう再び問われ、驚いた。
だが、ここで驚いてしまえば、異能の事や過去の事を勘付かれるかもしれない。
バレてはいけない、バレたらきっと……
そう思考し、口元を歪めながら答えた。
『あー水性の筆で描いたから、取れちゃったのかな〜?亦描かないと〜』
邪気に塗れた無邪気な微笑みを浮かべ、話す。
嘘を吐き続ければそれは本当になるとは誰が云ったものか。
それは結局…
そう思うと根っから自分は生きている価値がないと再認識してしまう。
頭の中で血を分けてくだすった両親含めた人々が皆、自分を人間として見ていないあの情景が出てきて、吐き気がする。
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