四季の夕暮れ【四季彩譚】 (ページ5)

今日:1 hit、昨日:0 hit、合計:456 hit

烏がカァカァ鳴き出した。２ページ5

「影見さん。ふらんす物語ってありますか？楓に買ってあげたいんです。」
「ああ、ふらんす物語ですか、すみません…実は、前のお客様が買った時点で売り切れだったのです…。」

あれは椛姉さん？
ふらんす物語を買いに来たのね…
私が買った時点で売り切れ…

その話は後にして、野菜を返しに行こう。
『あの、影見さん。さっきのお野菜…』
「あら、如何なさいましたか？」
『お野菜…申し訳ないのですが、返します…』

ああ、今日は最悪な日だ。
夏の暑さを耐え忍んだ百姓が作ったものを返すなんて…
罪悪感しか無い！
「楓？一体どうしましたか？野菜を返すと言ってしまって。」
ああ、椛姉さんにも見られてしまった。
まさに笑止千万だ。

「楓。何か嫌な事があったのでしょう？話してみて下さい。」
椛姉さんの白い手が私の手を握る。
優しさに満ちた瞳で目を合わせられる。
こうなったら話すしかない…

『実は、貰ったお野菜で、食べれない物があるのです、誰も…』
私は恥を捨て、洗いざらい話した。
『赤茄子(トマト)がどうしても食べられなくて…食べようとは思えるんですが、毒が入っているのではないかと…。』
叱られても良い、焼くなり煮るなりされても良い覚悟で私は挑んだ。

「ふふっ。楓は子供ねぇ。良い？赤茄子(トマト)はね。食べれるのよ。甘くて美味しいし、水々しくて美味しいわよ～。」
毒は入っていない…
甘いと聞き、さっきの自分の言葉を思い出すと恥ずかしい…

「あの…店内でお話しするのでしたら、お外でして貰えませんか？」
「あら、御免なさい。では、夏目先生の吾輩は猫であるを！」
「はい！畏まりました！」
赤茄子(トマト)は食べれる事を知っている椛姉さんはとても賢い。
やっぱり、椛姉さんには叶わないね。