アクセル・アンド・キュア (ページ5)

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やってやる、なんて勇ましい事は言ったけれど実際自分が何が出来るか分からない。格闘技の経験なんて無いし、向こうでは運動が少し出来た程度でしかない。
大体この体でまともに動くのはこれが初めてなのだ。身長は合わせてあったが尻尾があるという環境がどうにも慣れない。
ﾌﾞﾝｯ
「っ危な、い」
熊が放ったであろう衝撃波的な何かが頬をかすめた。痛い。ダメージ的には大した事はないのだろうがなにせ自分は現代人。取っ組み合いの喧嘩も碌にしないような環境で育ってきたものだから、痛みに対して耐性が無い。
と、熊と睨み合っていると傷がふわりと温かくなった。
「スキルが使える？…瞬斗！」
スキルが使えるという言葉、傷が瞬く間に治っていく感覚。これは、行ける！
「［旋風斬り］」
横一文字に剣を振るう。思ったよりも軽く、熊の首を落とした。びちゃびちゃと傷口から吹き出る血液。姉さんが顔色を悪くして口元を抑えている。元々ゲームでも‘倒す’という行為が苦手だった姉はこの光景に耐えられなかったようだ。俺は運の悪い事に(この場合運の良い事に？)事故現場に遭遇する事が異様に多かったので慣れてしまったが、姉さんにはきつかったようだ。げほ、と苦しそうにしているので死体に背を向けさせ、背中を擦る。げほ、うぇとなかなか吐く事が出来ないようなので、［自在蔵］から水を取り出して飲ませる。案の定いきなり入ってきた水に胃が反応し、少量の胃液と共にすぐに吐き戻した。
ぽんぽんと背中を叩くように撫でているとぼろぼろと涙を流し始めた。ぎょっとして固まってしまう。何しろ姉が泣く姿など中学の頃以来なのだ。どうした物かとおろおろしていると、俺の方にむきなおり、ぎゅと頭を胸に抱えた。
「ごめん、ごめんね、不甲斐ない姉で」
何となく言いたい事の察しが着いた。俺に殺させた事を後悔しているのだろう。姉の職業構成は回復寄りである。だが、あの程度のモンスターなら一人でも狩れた筈だ。その事を後悔しているらしい。
それでも俺は姉さんに殺して欲しく無かった。ただ回復してくれるだけでも良い、綺麗な姉さんのままで居て欲しかった。
「俺は、後悔してないよ。姉さんを守れた」
うぅ、と泣くのを堪えるような声を出した。そしてずび、と鼻水を啜り
「わたしも。わたしも瞬斗を守る。お姉ちゃんだもの」

まぁ見ての通り、俺達の冒険はここから始まった。序章:姉弟の絆、と言った所だろうか。