56 無駄に繋がる ページ12
お母さんはそう言って人物を優しく招く。
今は見たくなかった。今日はもう、1人にしてほしい。
「久しぶりですね、Aさん。
最後に会ったのは小学生の頃でしたよね。」
「か、監督。」
昔のような親しい接し方ではなく、初対面の人と話すような謙虚な話し方。まるで私との思い出を無くしているように。
昔のような血色の良い顔つきではなく、目の下にクマが主張され、やつれていた。
答える言葉が出てこない。
前は、あんなに溢れていたのに。
「A、怪我大丈夫なの？
昨日電話貰ってビックリしたのよ。」
「う…ん。」
「＿＿少し、別の場所で話しませんか？」
監督がタイミングを見計らって入って来る。
お母さんがこちらをまじまじと見ている。
はい。この空気から逃げるように返事をした。
監督はお母さんに地元のお土産を預けると、ゆっくり体を支えてくれた。
「あ、多分…普通に歩けます。そこまでの怪我じゃないので。」
私の言葉を無視して、監督は私の足を下ろした。
「少し外に出ましょう。」
包帯を巻かれたり大きな湿布を貼られたりしていたが、予想外にも私の体は動いて、大袈裟な治療だと思った。
雲一つ無い快晴。この下を走れたら。
どこからか子どもの甲高い雑音が聞こえる。
今は何もかもが無駄に思えてならない。
「Aさんが日本代表と聞いた時は驚きました。
昔から凄かったですが、まさか、ここまで…」
「でも私、全然駄目なんです。力不足で、みんな凄くて…」
「最初はみんなそんなものですよ。あなたが凄いと思っている人も不安を抱えているんですよ。」
何となく監督と会うのは嫌だった。
嫌いになったという訳でもないし、会えない理由がない訳でもない。
それでも、何だか会いたくなかった。
頭に基山くんの言葉が浮かぶ。
彼にも同じような言葉を投げかけられた。
しかし私はその問いかけを無視して結果がこれだった。
監督の甘く柔らかい言葉に誘惑されたがすんでのところで痺れを切らして大切なことを思い出した。
自分の大切な技を簡単に第三者にコピーされ、第三者にシュレッダーでかけられて無惨にも形すら残っていない。
「だっ、て私！
…監督からのもらった技。忘れちゃったんです。
出そうと思ってもっ、上手く出せない！」
それでも監督はニコニコと笑みを絶やさなかった。
「忘れてしまったのなら、また思い出せばいいだけです。
貴方はまだ若いから、沢山挑戦できますよ。」
全てが繋がった。
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ビジュ(プロフ) - ほうじ茶さん» コメントありがとうございます！不定期更新となってしまいますが、ほうじ茶さんのご期待に応えるためにも少しずつ更新していけるように頑張りたいです(◍•ᴗ•◍) (2月29日 23時) (
レス) id: 529a911b17 (このIDを非表示/違反報告)
ほうじ茶 - めっちゃ面白いです！！続き待ってます！！ (2月29日 20時) (レス) id: 47dba8b665 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ビジュ | 作成日時：2024年1月15日 23時
