帰る場所【シュウ】 ページ5
「A、君はどうするの？」
漆黒を感じさせる黒髪と色度の濃い髪留めが風に吹かれる。
私より幼い顔立ちをしているのに、彼は何故か私よりも大人びている。
雷門の試合を間近で見ていた私に、シュウはそう告げた。
ずっと前にゴッドエデンから抜け出した私を匿ってくれたのは、シュウだった。
なぜ教官達が追い掛けて来ないのかは分からない。
けれどこうやってシュウと一緒に過ごせたならラッキーだ。
「私は…家に帰るよ。みんなが待ってるから。
親も友達も。」
「シュウも！一緒に帰ろうよ。」
「…、僕は残るよ。」
「でも…もう目的は果たしたんだよ。」
「僕はここを守らなきゃ。
雷門のみんなと帰れば安全だよ。」
でもシュウは一人になるじゃん。
その言葉は喉を通らず、別の言葉が口走る。
「…やっぱりここ綺麗だね。
でも夕方が一番好き、一番綺麗だから。」
「そうだね、天馬とも一緒にここで見たんだ。
前は強い言葉をぶつけちゃった時もあってさ。」
シュウともっと一緒にいたくて、別れたくなくて。
シュウの1番が私では無く松風君であるのに引っ掛かる。
今までの1番は…私だったのに。
シュウは松風君との思い出を独り言のように語った。
「…ねぇ、どうして私を助けてくれたの？みんな、私を無視してたのに。」
「…僕と同じだったからだよ。」
同じという言葉に疑問を抱く。シュウは話を戻した。
草むらから音がすると思えば小ヤギで。
シュウは我が子を見るような優しい笑みで撫でた。
「多分もう船が準備されたよ。
さぁ、行って。」
シュウは私の背中をポンと押した。
同時に視界が眩んだ。わたし、こんなに涙脆かったっけ？
上手く見えない。泣いてるんだ。
シュウが笑っていた。
小ヤギが小さく鳴いている。
涙が中を舞う、日に当たって、海を映して輝いた。
酷く美しかった。
「シュウ、また会いに来るから、ありがとう！
元気で居てね！」
「…あぁ！Aも！」
崖から飛び降りて急いで船へと向かう。
痛みを感じず、むしろドンドン素早さを増した。
朗らかで温かい風が私の肌に触れた。いってらっしゃいと言うように。
「早く、帰らなきゃ。」
雷門のみんなに挨拶して船に乗り込んだ。
誰からの視線も感じなかったが、そんな小さなことは海の美しさには敵わない。
ここから出られたのはいつ振りだっけ。
まず家に帰って、学校に連絡して…
無事到着。ゲートを開けて外に出た。
「シュウ、着いたよ！」
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作者名：ビジュ | 作成日時：2024年1月4日 22時
