永劫回帰【イナイレ】 (ページ11)

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チョコレートは重症【鬼道有人】ページ11

2月14日。何処からか甘い匂いが漂っている。
まだ外は冷たい風で肌寒いのに、体は熱を持っていた。
今日が休日だったら。どれほど良かったか。

「これ、鬼道君に…」
「渡しておくね。」

これで手元にあるチョコは7個目。
いや、私のを含めれば8個目。
私が受け取っただけでこんなにあるのだから、実際に本人は既に手に溢れるほど持っているだろう。

秋ちゃんに作り方を教えてもらいながら作ったチョコレートは自分でつくったとは思えないほどの見栄えだった。
初めはチョコの溶かし方すらいまいち分かっていなかったから。

マネージャーである私に選手達のチョコが回ってくるのは珍しいことではない。
現に他のマネージャーもチョコの件で大変そうだ。
特に鬼道君はミステリアスな雰囲気を出す一方で、まだ中学生という幼さも兼ね備えている。
勉強もできて、運動もできて、優しくて。
そんな人が身近に居たらこんな状況になることは目に見えるだろう。

彼の魅力に取り憑かれたのは私も例外では無かった。
帝国の試合を見てからハートを撃ち抜かれた、まさに一目惚れ。
重症だ。
それでも私のは、渡せないな…
折角の一大イベントでも、この多さ。
私の気付かれない、気付かれたくない好意は届かない。

[部活動終了の時刻です。各部活動は＿]

凛とした放送部のアナウンスが入って、みんなが鞄を持って帰路に着こうとしていた。
少し辺りを見回せば、少し顔を赤らめた女の子が1、2、3…
自分から思いを伝えたい子がグラウンドに募っていた。
誰に用があるのか分からないが、少なからず鬼道くんに声を掛ける子は出てくるだろう。
…早く、私も渡さないと。

「鬼道君、チョコ。他の子から預かってたんだよ。」
「…あぁ、ありがとう。」

既に重たそうな荷物に加え、大きめの紙袋が目に見えた。
こうなることを予想していたのか。
まるで女の子の心を覗いているような、用意周到な所にも胸がときめいてしまう。

重症だ。
鬼道君のまたかと言わんばかりの顔を見て、私はズボンにシワを作った。
ずっとポケットに入れていたチョコレートはきっともう溶けて使い物にならない。
秋ちゃん、付き合ってくれたのにごめんね。

「Aのは無いのか…？」

目があった。
鬼道君の淡い赤みを孕んだ頬を見た。
そう言われその物を差し出さないわけにはいかなかった。ポケットに手を突っ込んだ。
たった一言でチョコだけでなく、私の心まで溶けた。

私は重症だ。