39 行け、私 ページ41
実質技が無いも同然で、嘘は言ってない。
心無い言葉を浴びせられるかもしれないとギュッと目を瞑ると、吹雪君は相槌をして、私の肩に触れていた。
「じゃあ今技作ってみようよ。
大丈夫、きっとできるよ。」
確かに吹雪君は攻守ともに優れたプレイヤー。
必殺技を作ることに長けているはず。
エイリア学園の時もディフェンダーをやってた時があった気がする。
＿行け、A。今がチャンスだ。
「そう、だね。やってみるよ。」
吹雪君とグラウンドに出て、木の枝を持ちながら二人で技のイメージを考える。
「まずどんな技にする？
シュート技？ディフェンス技？それともドリブル技？」
…カタール戦は体力勝負。
一度ボールを取られたら巻き返すことが厳しくなる。
試合に適した技がほしい。
「うーん、ディフェンス技…かな。」
「いいね。じゃあどんな技にしようか。」
さっきと同じ質問に戸惑う。
どう答えればと木の棒を揺らしながら考え込むと、吹雪くんが助け船を出した。
「僕の場合氷をイメージしたり、狼をイメージしたりしてるよ。でも必殺技って最初は突然出てくるものじゃなくて、思いが固まった時に思いつくものだと思うよ。」
彼の難しい言葉に言葉を濁す。
今はどうすれば良いのか。そんな幼稚な疑問がポンッと頭に浮かんだ。
「Aちゃんは大切な物ってある？
その事を思い浮かべてみて。」
ふと思い出したのは、小さい頃公園で遊んだ線香花火。パチパチと小さく響いた花火が今も記憶にある。
「線香花火、かなぁ。お母さんと一緒に遊んだことが一回だけ。」
「うん、良いね。
じゃあ花火をイメージして練習してみよう。」
彼は私を安心させるように穏やかに弧を描く。
…技ってこうやってボールを運んでだとか、こうやって動きを付けてだとか、そういう練習をするんじゃないのか。
「…ごめん、練習って、」
「うーん、そうだね。Aちゃんの場合、もう一回…」
＿
連絡履歴を見て一番上を押す。
私から掛けるのはいつ振りだろうか。
その人は3コール目で出た。
「A？どうしたの？」
「お母さん、急にごめん。
次回の試合で役立てるために聞きたいんだけどね。
私って…昔どんな子だった？」
「そりゃあとっても良い子だったわよ。
一回もお母さんの約束、破ったこと無かったし…」
私の良いところを即答してくれたことが嬉しい。
良い子、私が1番聞きたかった事だ。
「そっか。…お母さん、私ってさ。何が好きなのかな？」
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作者名：ビジュ | 作成日時：2023年12月3日 21時
