残念至極十年前の君へ【イナイレ】 (ページ32)

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30　実物化されたもう一回ページ32

円堂君がマジマジと見ているからか緊張する。
それを紛らわすように大きく息を吸った。

「よし！」
爪先でボールの位置を確認してから勢いよく蹴る。
音と振動。五感を使ってボールを追う。
目が見えないって、こんなに不自由なのか。

「ここ！」
ボールが右腕の横をすぐ駆け抜けるような感覚があり大きく手を出したが、何故か足元に直撃。呆気なく倒れた。
強く蹴らなければ良かった。手にボールの感触はまるで無かった。
「A、大丈夫か？」
「うん。もう一回やるよ。」

＿
「…もう一回！」
「…くっ！もう一回！」
「ぃ゙…も゙う一回!」
時間が経つにつれ、下に汗が落ちる感覚とボールがすり抜ける感覚を感じた。

がむしゃらになってボールを蹴った。
どこの部位を鍛えているのかを分からない。
それでも多分、円堂君が隣で惜しいだとかさっきより上手いぞだとか大袈裟なことを言ってくれるからついつい続けてしまう。
ただ何十回と繰り返していると彼は心配の色を見せるようになった。

「なぁA、もうボロボロじゃないか。
一旦休憩しよう、な？」
「あと一回でできる…次は成功する。」

彼の手を軽く払ってボールを蹴った。
少しザラザラしていて、皮が厚かった。
脳までその言葉はもう届かない。
ただただ成功させることしか頭に無い。

今まで乗せていた憎悪ではなく、自信を乗せて。
もう一度サッカーボールを蹴った。
密室だからか空気が悪い。
鼻でフゥーフゥーと音が出るほど息を吸った。

＿
…不思議だ。
目隠ししてるのに。
ボールが見える、目の前は真っ暗なのに、暗闇の中にボールだけが動いている。
手に取るようにボールの動きが、軌道が分かった。
今までのヌルイ反応ではなく、素早く動いて。

「…!ここだ！」
手に感触が乗って目隠しを取る。
やったと思わず感嘆の声を漏らした。
念願のボールは、布が破けてボロボロだった。
私がこうしてしまったのかもしれないが。

「A！凄いじゃないか！」
「円堂君…、ありがとう！」

＿
「◯◯！また上手になったんだよ！見ててね！」
「◯◯、お前は打つたびに上達するんだな。
…凄いぞ、このチームの誇りだ。」
＿

「え…、円堂君、ごめんね、
わざとじゃないの。つい夢中で。
本当に…ごめんね、ごめんね。」
「…？謝ることじゃないだろ？
Aは凄いことやったんだからな！」
「よーし！俺も頑張るぞ！」

円堂君の大きくハツラツとした声に私は賛同できなかった。練習を、邪魔されたのに。