残念至極十年前の君へ【イナイレ】 (ページ30)

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28　本物への条件ページ30

「…っ、技なんだけど、私＿＿」
「まぁまぁリカ、今知るより試合で知ったほうが良いでしょ。ね、A。」
「…うん」
「せやな〜ごめんな〜、って！
もう時間や！ごめんなA〜ちょっと行くとこあんねん。また話そな〜」
「またねA、大変だろうけど頑張ってな！」

あの後に何を言おうとしたか分からない。
脳が指示を出す前に口が動いた。
何より何を話そうとしていたか分からない自分が怖かった。

二人に手を振って春奈ちゃんにもお礼を伝える。もう見慣れた部屋のドアノブを握った。
罪悪感が私を襲った。
試合に出て技を出すなんて1つもないのに、また見栄を張ってしまった。

日本代表だからカッコイイ技を出せて。
イナズマジャパンのみんなだけでなく、日本中を虜にするようなカッコいい技が。
世界を相手にできるほどの。カッコイイ技が。

期待させて、ごめんね。
どう足掻いても、きっと本物にはなれない。

今の私にはただただ心のこもっていない謝罪をするしか方法が無かった。

「「世界一に！」」
頭が真っ白で周りの音が遮られていたが、その言葉がトリガーになり右を向く。
みんなが腕を上げて指で1を作っていた。
外に出られないだけで駄々をこねる私とは対称的に、イナズマジャパンは相変わらずに1人1人が生き生きとしていた。

「秋ちゃん、さっきのは？脱走作戦？」
「脱走ではないけど…作戦…うーん作戦かもね！
世界一になるためにみんな部屋でできる事やろうとしてるんだよ！」
脱走だという言葉が冗談だと思ったのか、何故か愛らしく笑った。
部屋でできること？そんなの、筋トレと必殺技の案出しくらいしか…
腕を組んで部屋に出入りを繰り返しながら秋ちゃんの言葉を汲み取ろうとする。
時間をどう有効に使うべきなのか＿

…いってぇ…
痛さを悶える声が聞こえて足を止める。
すると何かを打ち付けているような音がハイテンポで響いた。…これは＿
かなり大きな音で、部屋の中にいても聞こえた。
…1番近い部屋の人は確か＿

部屋の前にドンと効果音が鳴るように立った。
立場逆転、人の部屋にはどうも緊張する。
今度は私がノックする番…

えっと…ノックは3回ノックは3回。
頭の中で何度も唱え、意を決してドアを強めに叩く。

「円堂君？何してるの？」
視界が広くなる。トレードマークのバンダナが輝いていた。