22 正論 ページ24
「…ん！Aさん！」
見慣れない天井。先程の吐き気は嘘のように無くなり、何だかスッキリする。
うっすら香る石鹸の匂いを辿る。すぐ横に艶が光るアメシストを見た。
「ふ、冬花さん？」
「練習の時間になっても来ないから見に行ったんです。そしたらAさんが倒れてて…」
「え！た、倒れてた？」
あそこで気を失ってしまった。冬花さんとはきちんと話したことが無かったのに、申し訳ないことをしてしまった。目を合わせる事に気まづさを感じ、ヨロヨロと逸らした。
「…ごめんね迷惑掛けて。」
「いえこれもマネージャーの仕事ですから。」
疲労で倒れてしまったようです。そう彼女に伝えられた。少しパニックになっただけで…倒れた。自分が恐ろしくなった。次は、気を付けないと。
「そういえば今＿＿ってもう12時！？」
「はい、みんな今ご飯食べてますよ。」
感謝を伝えて廊下を駆け抜ける。
やってはいけない事という事くらい分かっているりでも、これは別にしてほしい。緊急事態だ。
食堂の文字が見えて急ブレーキを掛ける。
バタバタと大きな足音を立てた事が原因で、みんなの視線を無意識に集めた。
「ん？A？A！体は大丈夫なのか！」
「だ、大丈夫。もう元気。」
円堂君に肩を掴まれてグラグラと揺らされる。
頭が、クラクラする。
「キャプテン、その位にしなよ。」
吹雪君が救いの手を差し伸べてくれた。
円堂君は目を丸くして、あーすまん！とバッと離した。
「…体調戻ったから、午後から参加できるよ。」
「本当か！いやー良か＿」
「辞めておけ。」
円堂君の返答にホッとした直後、彼よりも低くて落ち着いた声が空気を揺らした。
ドレッドヘアー。ゴーグルが太陽に照らされて光る。
「朝に倒れているなんて滅多に聞かない。
環境が突然変わって、相当疲れが溜まっていたんじゃないか。今日は休息を摂るべきだ。」
「＿そう、だね。」
鬼道君の言葉にみんなが耳を傾ける。
饒舌な彼の言葉に反論のしようがない。彼の的確で説得力ある言葉に何も言い返せない、その通りなのが悔しいし、情けない自分を認めなければいけない。
「確かに、鬼道の言う通りかもなぁ。うーん。
分かった！A今日はゆっくり休めよ、な？」
円堂君にまで言われたらもう従うしか無い。
分かった、そう返事してみんなが栄養を摂り終わるのを待った。
1人で食べる昼食は触感があるだけで。
酸味、辛味、甘味。何一つとして感じなかった。
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作者名：ビジュ | 作成日時：2023年12月3日 21時
