母の身代わりとなった王女 ページ47
「初めは分からなかった。母は父から"エリー,,と呼ばれていて、父は私のこともそう呼んだわ。でも、エレオノーラにもエルティアナにも"エリー,,という愛称はあるもの。異変に気がついたのは、暫く生活を共にしてから。母の口調や所作、表情や雰囲気まで全て同じにさせられた。少しでも違えば鞭で叩かれ、罵られ、"エリー以外のお前に存在価値などない,,って貶されたわ。だからね、私は父が望む母としてしか生きたことがなかった。父が病を得て寝込むようになるまでの数百年、ずっと母の身代わりとして生きたわ」
「じゃあ、ユーリの所作は……」
「ええ、母の所作そのものよ。というか…それ以外の所作を知らないの。所作も、表情の作り方も、口調も雰囲気も、どこか必ず母に似てしまう。だから、私は自分自身がどんな者なのか、未だに分からないの」
自嘲気味に嗤うと、皆は悲痛な面持ちで俯く
「転機が訪れたのは、第一王妃の子である王太子が病で亡くなり、私に王位が回ってきた時よ。それまで母の身代わりとしか生きてこなかった私は、いきなり王に必要なものを全て学ばなければいけなかった。王は国と民を守り、国に奉仕する存在だから死ぬ気で勉強したわ。女王になれば、誰かに認めてもらえると思ったから。頑張ったね、って褒めてもらえると思ったから。そんな下心がある女王など、誰も褒めるはずがないのに」
皆、口で褒めて内心嘲笑っていた。こんな小娘が女王など馬鹿馬鹿しい、所詮妾の娘の癖に、王太子殿下の代わりにこの娘が死んでいれば良かった…、なんて否が応でも耳に入ってくる罵詈雑言。何も背負うものがなければ早々に自ら命を絶っていた。けれど、イデアールは母が愛し、自分を育ててくれた国だから見捨てる訳にはいかなかった
「父が崩御し、女王として即位した私は数年後に娘を産んだわ。それがエヴェリーナ」
「王配殿下は？」
「精霊は、異性と交わることなく子を胎内に宿すことができるの。だから、生まれてこの方一度たりとも結婚したことはないわ」
「へぇ……」
「でも、女王としての責務で忙しかった私は娘に優しくできなかった。子育ては二の次、殆ど乳母に任せていたわ。夜、睡眠を取る前に娘に会いに行く…程度だった」
責務で忙しい、なんて言い訳にならない。どんな理由があったとしても、エヴェリーナは寂しかっただろうから
思い返せば思い返すほど、自分がダメ母だったことを突きつけられ、ため息しか出ない
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作者名：アストライアー | 作成日時：2021年6月13日 18時
