懐かしき夢 ページ28
「……!!ユ……!!」
遠くで声が聞こえる。誰かが、私を呼ぶ声。苦しそうに私を呼ぶあなたは、誰?
「ユーリ、しっかりして!!」
ふ…と意識が浮上する気配があり、鉛のように重たい瞼を押し上げると
「ベロ、ニカ…姉さま…エリザ、ベス…姉さま……」
リオネス王国の王女であり、私にとっては姉にあたるベロニカ姉様とエリザベス姉様は、意識が戻った私を見て泣き出してしまった
「ごめんなさい、ユーリ!私のせいで…っ…ごめんなさい!ごめんなさい!」
「怪我、は…ない…ですか……?」
「ないよ…っ…あんたが、私たちを庇ってくれたから……!」
頬を伝う涙を乱暴に拭って怒ったような口調で怪我の有無を伝えるベロニカ姉様に心底ホッとする
「そう…良かった……」
王女たちに怪我がないのなら良い。この怪我だって勲章だ。大好きな姉たちを護れた、名誉の勲章
水の音が聞こえる辺り、どうやら私たちは崖下に落ちてしまったらしい。とはいえ、事前に"陛下に知らせて15分以内に戻って来なかったら兵士を派遣して,,と侍女に命じてあるのですぐに助けが来るだろう
「なんで…ユーリだけで来たんだよ!!城で待ってれば良かっただろ!!?」
「ふふ…っ…だって…嫌な、予感が…したから……」
本当は分かっている。姉の非常事態とはいえ、まだ幼い王女である私が一人で向かうべきではないということを。けれど、嫌な予感がしたから。行かなければ後悔すると第六感のようなものが訴えていたから
「エリ、ザベス…姉さま…もう…一人で…どこかに行っちゃ…ダメですよ……。私たちが…姉さまが欲しいものを…何でも…取ってきますから……」
それほどまでにエリザベス姉様は愛されている。無条件に、"エリザベス,,という一人の人間として、周りから愛されている
「違うの…私が取って父さまや姉さま、ユーリにあげたかったの。だって……」
その先は言葉にならず、エリザベス姉様は痛々しいくらいずっと泣きながら謝っていた
きっと…エリザベス姉様は知っている。自分が大好きな父や姉たちと血の繋がりがないことを。けれど、まだ幼くてどう表現していいのか分からないから悪戯ばかりを繰り返す
「大丈夫…大丈夫です……」
ずっと泣いて謝るエリザベス姉様の頭を撫でながら夕焼け空を目に焼き付け、そっと意識を手放した
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作者名:アストライアー | 作成日時:2021年10月31日 10時