Signal.

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「なに！？」


ボタボタと音を立てて広がっていく水たまり。


「な…早く！救急車！」

『っ…！』


悲鳴と沢山の足音。

赤黒く染まった紙の山。

目に飛び込んできたのは、あまりにもショッキングな映像。

…あれ、私のファンレター？


「どうしたんですか！？なんでこんな…っ！」

「Aさんのファンレターを整理してて…そ、そしたら…」


涙ながらに訴える女性スタッフさんの手の甲からは、深々と刺さったカッターの切っ先が見えた。

途端に思い出したくもないものが一気に脳内を駆け回って、ぐらりと視界が歪む。


「え…」

「ファンレター、ですよね…？」


岩田さんとNAOTOさんが困惑したように繰り返す。

さっきから震えが止まらない。


「カッターの刃なんてなんで…」

「Aちゃん、まさか…！」


今市さんが勢いよく振り返って、目を見開く。


「Aちゃん！？ちょっ…大丈夫！？」

『ご…ごめんなさい！ごめ、ごめんなさ…ごめ…っ！』


血痕を残しながら連れて行かれるスタッフさんの背中にひたすら謝り続ける。

私のせいだ。

私のせいで傷つく人ができた。

私に向いた悪意が、関係のないスタッフさんを巻き込んだ。

私の。

私の、せい。


「A！」


騒ぎを聞きつけたのか、HIROさんが走ってきたのが見えた。


『HIROさ…わ、わた、私…っ』

「落ち着け。Aのせいじゃないから」

『で、でもっ』

「大丈夫だから。な？」


背中をさすってくれるHIROさんの大きな手。

呼吸をするたびに気管が締め付けられるみたいに苦しい。


「HIROさん、どういうことですか！？何でこんな…」

「何でって…………NAOTO、聞いてないのか？」

「聞いてって…何を…」

「…A、言ってないのか」


眉間にシワを寄せたHIROさんに、すみませんと小さく発した。

言えるわけ、ない。

三代目さんは忙しいし…嫌われてるのに、私。

相談なんてできるわけない。


「誰も、聞いてないのか？」


ため息をついたHIROさんと、黙り込むメンバー。

おしまいだ、何もかも。


「Aがこういう嫌がらせ受けてるのは今に始まったことじゃない。事務所にまで届くのは初めてだけど…家は酷い」

「な…」

「…お前らだって、まさか何にも無いとは思ってなかっただろ？」

「……」


沈黙が、答え。

なんて残酷な問い。

視界が真っ白になって、そこで記憶が途切れた。

最後に、大好きな声が焦ったように私の名前を呼んでくれたような…そんな気がした。

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