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世間の熱は、やっと落ち着き始めていた。
初の単独ドームツアーに向けて忙しい三代目さんは、自然とバラエティへの出演も減り…会うことはほとんどなくなった。
私のほうもモデル業やバラエティの単独ゲストが増えて…きっと傍から見れば順風満帆。
これがHIROさんが熱愛を否定しなかった理由のひとつなんだと、ぼんやり思う。
…でも。
『……また、』
毎日のように郵便ポストに投函される手紙は一向に減らない。
消印がついてないから、きっと直接ここに持ち込まれているんだろうけど。
知らない誰かが毎日ここを訪れて憎悪をぶつけて帰るのだと思うと、背筋が冷える。
『はあ…』
なるべく丁寧に中身を取り出して、またため息。
何が入ってるかなんてわからない。
虫の死骸や何かの血痕が付いているだけならまだかわいいもので。
カッターの刃が入っていることなんて日常茶飯事。
…初めはここまで酷くなかった。
一部の過激なファンの行動だけが、徐々にエスカレートしていく。
【Aちゃん、元気?】
【お昼、Aちゃんがバラエティ出てるの見たよ】
【身体壊さないように頑張ってね】
【おやすみ】
ほぼ毎日のように届く今市さんからのLINE。
近況だとか、私の仕事を見ただとか…。
忙しいのに、そんな内容を少しずつ送って…最後には必ず私を案じる一言を付けてくれる。
『ごめん、なさい…』
今市さんに返信することは、きっとこの先もない。
一方的に届く既読だけがついたメッセージが履歴にたまっていく。
…私となんて、関わったら駄目なんだ。
三代目さんの輝きを、こんなことで曇らせたくない。
汚れるのは、もう私だけでいい。
『った…』
テレビから流れる三代目さんの新曲。
つい意識を傾けてしまったせいで、指に何かが刺さった。
『画鋲…?』
…いくらなんでも、幼稚すぎ。
そっと抜き取ると、小さな穴からぷくりぷくりと赤黒い液体が溢れてくる。
…涙は赤くない血液だ、なんて、そんなことを聞いたことがある。
『私、臣さんに泣かされてばっかりですね』
画面の向こうで妖艶に微笑む臣さんは、こんなの知らないけど。
『女の子、泣かせちゃ駄目ですよ?』
まだ、”登坂広臣の彼女”だから。
彼女っぽい軽口を叩くことくらい許してください。
透明な血液がぱたぱたとテーブルに落ちて、慌てて止血をして。
ジクリと痛む指を押さえ、部屋を出る。
直前に消したテレビに、三代目さんの姿はもうなかった。
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nao(プロフ) - 更新停止になっていてびっくりですT_T悲しいですT_T (2015年10月4日 15時) (レス) id: 2587847f15 (このIDを非表示/違反報告)
Mao(プロフ) - すっごく面白いです!更新楽しみに待ってます♪ (2015年10月1日 1時) (レス) id: 7f488f7675 (このIDを非表示/違反報告)
ゆと(プロフ) - あゆさん» コメントありがとうございます。主人公と三代目の関係も少しずつ発展していきます。なるべく早く更新できるよう頑張りますので、お付き合いいただけると嬉しいです。 (2015年8月30日 8時) (レス) id: c51140edff (このIDを非表示/違反報告)
ゆと(プロフ) - 三代目fanさん» コメントありがとうございます!主人公と三代目がどうなっていくのか…更新はゆっくりですが、想像しながらお待ちいただけると嬉しいです。 (2015年8月30日 8時) (レス) id: c51140edff (このIDを非表示/違反報告)
あゆ(プロフ) - おー面白い(≧▽≦)何のタイムリミットなの?気ーにーなーるー!!更新、めっちゃ待ってますよ! (2015年8月29日 22時) (レス) id: 7f78f03745 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆと | 作成日時:2015年5月19日 19時