君と僕の境界線

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「うわ、A頭ボサボサ」

『…久々に会ったかわいい幼馴染に対しての第一声とは思えないね』

「はは、ごめんごめん」


ちょっと困ったように笑うのは変わらない。

変わったのは服装くらい、かな。

芸能人だし歌う仕事だからマスクにニット帽。

こんな朝方に玄関先にいたら確実に不審者。


『まあ、とりあえず入って』

「うん、お邪魔します」


お邪魔しますと言いつつ結構ズカズカ入ってくる龍友兄。

うん、変わってないようでなにより。


「わ、部屋綺麗だし」

『僕のことなんだと思ってんの龍友兄は…』

「いや、寝起きだからもうちょっと散らかってるかなって思った」


笑いながら遠慮なくソファに腰掛ける龍友兄。

ここは龍友兄の実家か。

エアコンをつけたばかりで暖まっていない部屋に耐えかねてコーヒーを入れようと、ポットの電源を入れる。

そうしている間にも、龍友兄は物珍しそうに僕の部屋をキョロキョロ見回している。


「あ、あれ飾ってくれてんだ」

『ん？』

「俺があげたCD」


ガラス棚に並べたCDを指差しながら龍友兄はいたずらっ子みたいな笑みを浮かべている。


『そりゃあ…龍友兄が頑張ってる証だしさ…』


いざ本人に指摘されるとめちゃめちゃ恥ずかしい。


「飾ってくれんのめっちゃ嬉しいけどちゃんと聴けよな〜」

『ちゃんと聴いてます〜プレイヤーに取り込んでます〜』

「ならいいです〜」


昔と変わらない軽口の叩き合いにおかしくなって、お互いに笑いあった。

龍友兄が芸能人になる前に戻ったみたいで楽しい。

またくだらない話をひとつふたつしているうちにポットが一仕事終えた音がして、コーヒーを入れる。

こんなインスタント、芸能人になった龍友兄には合わないのかもしれないけど。

あいにく僕は一般人だからインスタントしか家に無い。


『はいコーヒー』

「ん、ありがと」

『龍友兄のお口に合うかわかりませんが』

「なにそれ。Aの中の俺何者なの」

『ん〜…芸能人様』

「芸能人様だってインスタントコーヒー飲みますからね」

『そりゃよかった』


龍友兄は笑いながらマグカップに口をつける。


「うん、美味しい」

『お口に合って光栄です』


マスクもニット帽も外した龍友兄のくしゃくしゃの笑顔は、やっぱり昔となんにも変わっていなかった。

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